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サーバント・リーダーの事例

FISH Storyのジョン・ヨコヤマにみるサーバント・リーダーシップ


ジョン・ヨコヤマ

あの有名なFISH哲学(※)は、ジョン・ヨコヤマ社長のリーダーシップによって生み出されました。倒産寸前だったパイクプレイス魚市場を「世界的に有名な市場にしよう」というビジョンを立て、そのリーダーシップのもとスタッフの共感を得ながら、自分たちは常にどうあるべきかを問い続けることで、今やシアトルの一大観光スポットとして、世界で最も有名で元気な魚市場へと変えたのです。

(※)FISHの哲学、「遊ぶ」「人を喜ばせる」「注意を向ける」「態度を選ぶ」の4つの行動原理は、職場風土改善の効果的手法として全米4,000社以上に導入されています。


彼は、「世界的に有名な市場にしよう」というビジョンを実現するために、3つの誓いをスタッフ全員の前で行いました。それは


  1. 仕事仲間となったすべてのスタッフの人生を、世界的に有名なものにする。
  2. 共に働くスタッフが互いに協力して、顧客、地域の人たち、そしてさらには
      世界中の人たちの人生をより良いものに変えられるようにする。
  3. スタッフに権限を与える時には、どんなことができるのかをはっきり説明する。

というものでした。シアトルにある、一魚市場にしては壮大なビジョンに思えるかもしれませんが、彼らは本気でそれらに向かい合い、そして現実化させたのです。

ここでは、稀にみる彼らの成功例を、サーバントリーダーの特徴「①個人を尊重する(Diversity & Inclusion)ことを基本理念に、③サポートする(serve)といった行動を通し、④個人の持てる力を引き出し(empower)⑤個人の成長(develop)へとつなげる」と、照らし合わせながら、解き明かしてみたいと思います。


①個人を尊重する(Diversity & Inclusion)

ヨコヤマ氏は日系アメリカ人2世として、戦時中はいくつもの強制収容所の体験をしてきました。子どもの頃には、日本人だからという理由で差別や、苦い思いをしてきた事から、いつしか人に対して注意深く振る舞うようになっていました。どちらかといえば、その人生を、隠れてきたようなものだったのです。父親の経営する農産物の店を手伝い、高校卒業後は農産物や魚の卸業、パイクプレイスでも働いたことがあったようです。そうした生活の中、ある時偶然にパイクプレイスのオーナーが、市場を売ってくれる事となり、自らがオーナーとなる事になったのです。人に対する過去の経験から、はじめは従業員に対して「自分の言うことに従えないのならやめろ」という態度でしたが、経営者として数々の研修を受ける中で、自分の態度を変えない限り、ビジョンの実現を目指して、人と一緒に仕事をすることは出来ないという事に気がついたのでした。そこで経営危機に陥っていたパイクプレイスのビジョンを作成し、リーダーとして、ビジネスを成功させることは勿論、スタッフの人生を豊かなものにしようと決意したのでした。以来ヨコヤマ氏は、個人の多様性を重んじ、それを受け入れるようなったのです。


  • 彼らの一人ひとりが、それぞれ違う要求や能力を持っているのと同様に、独自の創造性を持っている。(Diversity)
  • 従業員を信頼して、耳を傾け、スタッフの幸福のために投資する。自分の会社の人間を愛するのに努力はいらない。(Inclusion)
  • 一人ひとりと対話し、パイクプレイスの価値観と個人の持つ価値観や目指すあり方などを、じっくり話をして、仕事上の失敗もなぜそうなったかという対話を欠かさず実行し、再びチャレンジの機会を与える。

そんな彼の姿勢から、多くの点で自分の内なる声を聞きつつ多様性を体現しているリーダーと言うことができるでしょう。


②導く(lead)

ヨコヤマ氏はパイクプレイスでリーダーと従業員といった関係だけでなく、同僚同士がリードしあう企業風土を育てています。ビジョン実現のために同僚の信頼のレベルを上げることが必要だと考えています。


  • 新人や経験豊富な途中で入ってきた社員などにも、あり方ややり方の概念の違いを理解させ、具現化させる。すなわち魚を売ることだけでなく、顧客をどう満足させるかを考え、人との関係をつくることが、ビジネスの成功につながり、自分の存在価値の認識、自己成長にもつながっていく。
  • 成功を決めるのは、会社への貢献の度合い、すなわち、ビジョンを実現するための選択を常に行っているかである。
  • ミーティングで発言者が安心して話せる状況、を全員が作るようにルールを作り、リードする。

相手の話を聞き、そして対話を通してリードしていくことで、どんなお客様に対しても、反応を自分たちでコントロールできるようになり、それがビジネス成功へのステップとなったのです。


③サポートする(serve)
  • 音楽で成功したいと願っている社員が、パイクプレイスで働き続けたいと話をしてきた時には、耳を傾け、リーダーとして出来ること、出来ないことを説明した上で、彼に合った雇用形態で再契約をした。
  • 社員がパイクプレイスで長年働いた証として、人生の望みである家を買いたいと申し出たので、個人的にローンをバックアップした。その信頼に応え、彼はそれまで以上の仕事をし、パイクプレイスにさらなる貢献を行った。
  • 副作用に苦しみながら、もう一度魚が飛ぶところを見てみたいという癌の小児患者がいるという新聞記事を目にした。交通費を会社が援助することで、スタッフのその子を勇気づけたいという願いを実現させた。実はそのスタッフも、子どもと同様、癌の経験をしていた

これらは、人の役に立ちたいというスタッフの想いを、ヨコヤマ氏がサポートしてあげた感動的な事例です。彼は、ビジネスや個人の生活の悩みも含め、話を聞くことを通して、彼らが何を求めているのかを知るのです。そして出来ることや出来ないことを、対話しながら明らかにし、お互いに成長ができるようサポートしていくのです。


④人の持てる力を引き出す(empower)
  • 自分の経験からダメなやつと思っていた弟に対して、自分の態度を変え、チャンスを与えた。そのことで、周囲の協力も得られ、その弟は優秀なマネージャーとなり、記録的な売上も達成した。
  • 従業員からパイクプレイスで売るFISHグッズ(野球帽、キーホルダー、カップなど)の作成企画を受け、どうしたら実現できるかをアドバイスし、成功させた。Webのコンテンツ作りにもかなりの資金が必要だったが、それに了解をした。人は裁量権を与えられると、何倍もの力を発揮する。

彼は、従業員を単なる目的を遂げるための手段として使うのではなく、その人生を豊かなものにしてあげたいと考えています。そこにはビジネス上のボトムラインは互いにしっかり守っていこうという従業員との確かな約束もあるのです。


⑤人の成長(develop)を喜ぶ
  • パイクプレイスで長い間働いていたある男性が、常に成長し、自分を変えて行こうと取り組んでいた。彼は市場で働きながら大学に通い、学士課程、修士課程を終えて、自分の進むべき道を選択し、高校教師となった。ヨコヤマ氏は、彼がパイクプレイスでの経験を活かし、生徒や彼の子どもにより良い人生をもたらすことになるであろう、彼のその選択を自分のことのように喜んだ。

こうした例だけでなく、パイクプレイスで働くことの価値を分かっている人は、自分たちがその仕事を通して、関わる人たちの人生を豊かなものにしているのだと認識し、自己成長を感じているのです。その証拠に、ここで働きたいという人は大変多いのです。


この様に、一人ひとりの価値を大切にするというヨコヤマ氏のサーバントリーダーシップは、ビジネスの成功と、素晴らしい組織文化の醸成に大きく寄与しているのです。


 引用・参考文献

早川書房 「FISH フィッシュ」ランディン、ポール&クリステンセン著 相原真理子訳

祥伝社   「魚が飛んで成功がやってきた」ジョン・ヨコヤマ/ジョセフ・ミケーリ著
        青山陽子訳

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