掲載記事の紹介

青山学院Wesley Hall News No.132に当協会理事 広崎仁一の記事が掲載されました

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青山学院宗教センター発行の「Wesley Hall News No.132」シリーズ サーバントリーダー(2020年3月2日発行) に当協会理事の広崎仁一による記事「SDGsの先駆者 賀川豊彦のスピリットに学ぶ」が掲載されました。

SDGsの先駆者賀川豊彦のスピリットに学ぶ


SDGsの先駆者 賀川豊彦のスピリットに学ぶ

広崎 仁一
日本サーバント・リーダーシップ協会理事

最近、ドーナツ型のカラフルなバッジを身に付けているビジネスパーソンが増えてきました。これは2015年9月に国連サミットで採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」を2030年までに達成しよう!という意気込みを表したものです。「今のままでは地球は持たない」という危機感から、将来にわたって持続可能な世界を目指すための共通言語といえるSDGsは、21世紀の国際社会の憲法ともいえるでしょう。

1972年にローマクラブが「成長の限界」を唱えてから間もなく半世紀を迎えようとしていますが、この「成長の限界」がもう既に訪れていると言えます。世界は今後どのようにして持続的な未来を築いていけばよいのか?この世界的な共通課題への取組みがSDGsであります。

SDGsは「誰一人取り残さない(Leave No One Behind)」という人間の尊厳を守る基本理念のもとに、「17の目標(ゴール)」と「169のターゲット(達成項目)」として明示されています。そして地球市民である私たちを「地球を救う機会を持つ最後の世代」と位置づけ、環境の悪化や紛争、貧困、不平等などにより、転覆しかけている地球という船の乗組員である人類が、みんなで協力・連携して舵取りをするように警鐘を鳴らしています。

そのような中、米タイム誌の「今年(2019年)の人(Person of the Year)」にスウェーデンの環境活動家、グレタ・トゥンベリ(Greta Thunberg)さんが選ばれました。彼女の言葉に共感した多くの若者が行動に移し、それを受けて各国の企業が温暖化対策に力を入れはじめてきています。

SDGsが目指している姿は、❶地球の環境を守りながら、❷すべての人が尊厳をもって生きられる社会と、 ❸誰もが豊かな暮らしを継続的に営むことのできる経済を実現することです。

❶の環境の側面には、「目標6:安全な水とトイレを世界中に」、「1 3:気候変動に具体的な対策を」、「14:海の豊かさを守ろう」、「1 5:陸の豊かさも守ろう」があります。

❷の社会の側面には、「目標1:貧困をなくそう」、「2:飢餓をゼロに」、「3:すべての人に健康と福祉を」、「 7:エネルギーをみんなにそしてクリーンに」、 そして「4:質の高い教育」、「5:ジェンダー平等」、「11:まちづくり」、「16:平和と公正」の目標があります。

❸の経済の側面には、「目標8:働きがいも経済成長も」、「9:産業と技術革新の基盤をつくろう」、 「10:人や国の不平等をなくそう」、「12:つくる責任つかう責任」があります。

そしてこれらを実現するために欠かせないのが「目標17:パートナーシップで目標を達成しよう」であります。

私たち一人ひとりは「誰一人取り残さない」という基本理念の実現を目指し、これを自分ごととしてとらえ、自分らしい取組みを果たしていく責任が与えられています。

では具体的にどのように取り組んで行けばよいのでしょうか?

かつて、この「誰一人取り残さない」と同じようなスピリットを持ちながら、病んでいる社会の変革に立ち上がった日本人がいました。その方は賀川豊彦です。今年召天60年を迎える賀川は、キリスト教の牧師であり救霊活動をしながら、貧民救済活動、幾多の社会運動や平和運動にも取り組み、一人から始まった働きは変革の大きな実を結び、SDGsの先駆者のような存在となりました。そしてノーベル賞候補にも5回(文学賞 : 2回、平和賞 : 3回)推薦されました。

賀川は16歳の時にアメリカの宣教師から洗礼を受けました。そしてキリストの贖罪愛への応答として、自分自身を人々のために捧げようと決心しました。その後ジョン・ウエスレーの感化を受け、21歳の時に神戸の貧民街(スラム)に入り、誰からもかえりみられない生活をしていた貧民の友として生活をする選択をしました。そこで彼らに寄り添いながら数々の救貧活動と防貧活動とに身を捧げました。3年弱の渡米をはさみ、約10年間神戸の貧民街で伝道と隣人愛の実践をしました。

ここで賀川豊彦の功績をSDGsの17の目標に照らしてみましょう。賀川は無料宿泊所を用意し(目標1)、安い一膳飯屋を開き(目標2)、無料診療所を開設し(目標3)、日曜学校や保育施設で幼児教育に力を注ぎました(目標4)。また衛生改善活動にも全力で取り組みました(目標6)。消費組合運動を起こし現在のコープこうべの原型を作りました(目標12)。関東大震災後は、活動の拠点を東京に移し墨田区本所でのセツルメント活動を手始めとして、様々な協同組合の基盤作りや新しい制度・システムを構築していきました(目標9、11)。「世界連邦」を提唱し、地球環境や貧困・飢餓の救済・人権問題の解決に取り組もうとしました(目標16)。

特に賀川が注力した協同組合の精神は「一人は万人のために、万人は一人のために」であります。これはSDGsが掲げる「誰一人取り残さない社会」と非常に近いものがあります。

2016年11月に「協同組合の思想と実践」がユネスコ無形文化遺産に登録されました。そして当時の藩基文・国連事務総長は「協同組合は、誰一人取り残さないというSDGsの原則を体現している」と述べました。

「一人は万人のために、万人は一人のために」は万人が社会の主人公であるものを謳うものです。SDGsが描く「誰一人取り残さない社会」とは、単に77億人の栄養価や教育機会が満たされている社会ということにとどまらず、「一人ひとりが仲間として共に歩み、社会を発展させる存在(主人公)」として望まれる社会であります。

個人の力には限界がありますが、相互扶助の精神、協同の精神でお互いに思いやり助け合うコミュニティの中でこそ、個々人の持ち味が活かせる社会の実現が可能であると信じます。

賀川豊彦はSDGsの先駆者であると共に優れたサーバント・リーダーでもありました。

AOYAMA VISION として「すべての人と社会のために未来を拓くサーバント・リーダーを育成する総合学園」を掲げる青山学院で学ぶ皆さんが、勇気を持って一歩踏み出し「小さな賀川豊彦」として、自分の持ち味を発揮することで、「誰一人取り残さない社会」に近づいていけることを確信しています。


この記事は、青山学院「Wesley Hall News No.132」(2020年3月2日発行)に最初掲載されたものです。発行元の青山学院宗教センターから許可をもらい、ここに転載いたしました。