過去の活動報告

【開催報告】第二期第3回(通算第58回)東京読書会

開催日時:
2015年12月25日(金)19:00~21:00
場:
レアリゼアカデミー

グリーンリーフの著作としての「サーバント・リーダーシップ」は、彼の執筆、雑誌原稿、講演録などを集めて米国で1977年に刊行、2002年に再刊されていました。
再刊にはフランクリン・R・コヴィーとピーター・センゲが寄稿し、その日本語版には、さらに金井先生の解説が寄せられました。
それらはグリーンリーフの思想を学ぶ良いガイダンスとなるとともに、斯界の世界的著名人がサーバントリーダーシップという概念に強い期待を抱いていることを感じさせるものです。

【監訳者解説(今回の読書範囲の抜粋)】
・ここで著者グリーンリーフの経歴を駆け足で見ていこう。
・ロバート・キーフナー・グリーンリーフは、一九〇四年七月十四日(中略)インディアナ州テレホートに生を受けた。
・一九二四年には、ミネソタ州のリベラルアーツ教育における名門カールトン大学に移った。(中略)社会学者のオスカー・C・ヘルミングに講義で出会った。
・ヘルミングは(中略)どのような組織もより大きな社会に対して役割を果たしており、一定の機能を持ち、そして誰のために、何のために、その組織が創られているかを問う必要があると教えた。ヘルミングの影響もあって、グリーンリーフは、AT&T(注)を就職先に選ぶ。
(注)アメリカ電信電話会社。米国郵便配送の改善で名を挙げたセオドア・ニュートン・ヴェイルと電話を発明したアレキサンダー・グラハム・ベルが提携して設立した電話会社。19世紀から20世紀にかけて全米均一の高品質サービスを目標に、長距離交換と市内交換の通信サービスから製造、研究などを含む水平、垂直統合を果たし、アメリカ最大の企業として最大時のグループ従業員は100万人規模。1980年代から多数の地域通信会社や研究部門などが分割され長距離電話交換部門のみが残された。2005年には分割された会社の一つに買収され、その買収会社がAT&Tの名称を継承し(新AT&T)、旧AT&Tは長距離電話交換を行なう子会社として存続している。
・「(前略)この会社について深いレベルから学べて、アイデアを持ってこの会社に影響を与えられるような職位を得ようと思いました。・・・・私のビジョンは、社内では公言しませんでした。もしそんなことをしていたら、おそらく、そもそも採用されなかったでしょうし、この会社で長く生き残ることもできなかったでしょう。私はいつも、そのときどきの仕事でうまくいくように、能力のあらん限りを振り絞ろうとしました。それでも、入社のその日から、退社の日まで、自分自身のアジェンダ(目論見)をいつも持ち続けました」(『伝記』八三頁)(注)
(注)Don M. Frick, Robert Greenleaf: A Life of Servant Leadership, San Francisco CA: Berrett-Kohler, 2004.
・一九六四年にAT&Tを早期退職し、応用倫理研究センター(Center for Applied Ethics)を創設した。(中略)一九六六年(中略)コンサルタントとして、リーダーシップというテーマについて、(中略)ファリシテーターを引き受けた。このプレスコット大学での教育経験と学生との接触が、一九七〇年の小冊子の魁けとなっている。
(注)「一九七〇年の小冊子」が本書の第1章となっている。
・(前略)一九六八年には、(中略)やがて日本にも飛び火するが、米国における学生の反乱のピークの時期だった。自由を求める学生は、リーダーシップを取るような人は信じられないというアンチ・リーダーシップを謳っていた。(中略)このような状態を、ジョン・W・ガードナーやグリーンリーフは、残念ながら、若者は、アンチ・リーダーシップ・ワクチンを服用してしまったと嘆いた。
・グリーンリーフが、力づくで国を引っ張った人たちへのアンチ・テーゼともなるような代替的なリーダーシップ像を模索していたのは確かである。それこそ、みんなのために生きること、尽くすことのできるサーバント・リーダーというアイデアだった。(中略)言葉がフロー(自然の流れ)のように溢れ出て、小さなエッセイが誕生した。タイトルは「リーダーとしてのサーバント」。のちの一九七〇年のオレンジ色の冊子につながる。
そのころから、ついに、自覚的なサーバント・リーダーという哲学の語り部となり、このアイデアを提唱して広めるためのリーダーシップを自ら取り始めた。
・ギャロップ社の調査では、ミリタリー・リーダーを信頼できるという支持率が八十パーセントであるのに対して、ビジネス・リーダーの場合には二十八パーセントと低迷している。しかも驚くことに、この数字は三十年もの間、ほとんど変わっていない。
ビジネススクールは、(中略)コーポレート・エシックス(企業倫理)についても科目を持つことが求められる(中略)リーダーシップ育成そのものに倫理という次元が内包されrていくべきだろう。
・グリーンリーフ・センターの前所長を務めたラリー・スピアーズは、このグリーンリーフの考え方を次のように整理し、解説している。(中略)
読者のみなさんが、日々、サーバント・リーダーシップに親しみ、職場や家庭の中で実践し、よりよい社会をつくるためのきっかけとなれば、監修者としてこれにまさる喜びはない。

【スピアーズによるサーバントリーダーの属性】(解説略、本書p.532-533参照)
1) 傾聴(Listening)
2) 共感(Empathy)
3) 癒し(Healing)
4) 気づき(Awareness)
5) 説得(Persuation)
6) 概念化(Conceptualization)
7) 先見力・予見力(Foresight)
8) 幹事役(Stewardship)
9) 人々の成長にかかわる(Commitment to the growth of people)
10)コミュニティづくり(Bulding community)

金井教授の解説を会読して、参加者からそれぞれの意見や思いが表明されました。

・金井教授は、グリーンリーフの最初の著作について「言葉がフロー(自然な流れ)の
ように溢れ出て、小さなエッセイが誕生した」と解説されている。
フローということばは心が充実し高まった状態を示すもので、それ自体が
サーバントリーダーシップの価値を高めているように思う。
・サーバントリーダーシップの10の属性の最初に「傾聴」という項目あり、
その中で他者の声のみならず「同時に自分の内なる声に耳を傾け」と書かれている。
ベトナム生まれの禅僧であるティク・ナット・ハン(注)が同様のことを述べていた。
自身の内なる声を含めて傾聴をリーダーシップの第一要素としている点が卓越している。
(注)1926年ベトナム生まれ。生誕地の古都フエで出家。ベトナム戦争中、政治的立場を離れた非戦活動を唱えて社会支援に従事。キング牧師とも親交があり、彼によりノーベル平和賞候補者にも推奨された。著書多数。

・「コーチング」の目的は「自分が発信したことに自分が気づくこと」である。
これを達成することをオートクラインといって、自分自身の心が自然に発露する
フロー状態を意味している。
・オートクラインとはもともと医学や生物学の世界では内分泌のことである。
内分泌にもいくつかの分類があって、ホルモンなどと異なり、分泌した物質が
分泌した細胞自身に影響するものをオートクラインと分類している。
コーチングの世界での自分の発信に自分で気がつくことに適用したのは実に適切だ。
・グリーンリーフが当時の世界最大の会社であるAT&Tに勤務していたという
経歴が面白い。
Don M. Frickのグリーンリーフの伝記から金井教授の解説に引用されている
箇所(本書p.566。本報告書上記参照)を読んでみても、大きな組織に
勤務する中で「腹芸」が必要な状況も多数あっただろうと想像する。
ほとんどの人はそうした中で組織に染まっていってしまうのだが、
グリーンリーフの著書や発言からはそうした点は見当たらない。
しっかりした芯のある人生観を持っているのだろう。
・引用された伝記にある「人生のアジェンダ(目論見)」ということばだが、
アジェンダや目論見ということばが人生と結びつくと、胡散臭い感じを
与えてしまう。
今の時代、人生そのものを短絡的な損得勘定で測る風潮が強すぎるからだろうか。
・グリーンリーフがAT&Tを退職した1964年は、AT&Tはまだまだ上り調子だった。
その時代背景に注意しながら彼のそのときの人生の目論見を推察していくことで、
彼が説くサーバントリダーシップをより深く理解できるように思う。

・グリーンリーフの提唱で見逃せないのがリベラルアーツの重要性の指摘である。
最近のわが国でもライフネット生命の会長・CEOで、昨年(2014年)の
サーバントリダーシップ・フォーラムに登壇頂いた出口治明さんや
研究者の麻生川静男さんがリベラルアーツの重要性を説いている。
リベラルアーツでは、他から与えられる「結果としての情報」が知識なのではなく、
事象を自分の頭でひとつひとつ噛み砕いて解明していったことが知である。
言い換えれば頭脳の使い方のことであって、そのことによって人は根源的な
「知」へアプローチしていくことになる。
・1960年代の米国も白黒を明確にすることが貴ばれる科学万能時代だったと
思われるが、そこから半世紀経った今の日本では、教育行政が大学における
実業学習を重視し人文科学を軽視しようとする傾向が如実になってきた。
大学の世界ランクで日本の大学が軒並み順位を下げているが、この事実を
「大学のランクの測定方法に問題がある」などと言って見過ごすと危険だと思う。
安易な商業主義に乗った、いわば人間を報酬で釣ることを肯定した結果ではないだろうか。
・リベラルアーツの原点は、古典を原典で読むこと。容易なことではないが、
原典の中にしか存在しない世界がある。
ダライ・ラマ14世が物理学者ら自然科学者と対話をしたときのこと。
科学者が最新の情報をもとに質問をしたり議論を持ちかけてもダライ・ラマは
質問や討議の内容に臆せず、堂々と対等に話をしていた。
仏教や哲学をはじめ多くの原典で学んだ人なればこその対応だろう。
・自然科学の知識は十分にないのだが、下手な学説の解説書よりも、
その分野の始祖と言われる人の伝記や評伝を読むと学説の本質をつかむことが
できる。
最近ではポアンカレ予想を証明したペレルマンの伝記などでそのことを実感した。
(注)アンリ・ポアンカレ:フランスの数学者(1854-1912年)、位相幾何学などの業績多数。ポアンカレ予想とは1904年に提示された仮説であり、証明者に100万ドルを進呈する「ミレニアム懸賞問題」のひとつとなった。
グレゴリー・ペレルマン(1966年-):ロシアの数学、物理学者。2002年から翌年にかけてポアンカレ予想を証明。この功績により数学のノーベル賞と呼ばれるフィールズ賞を受賞するが、ミレニアム懸賞とともに受賞を辞退し、現在は隠遁生活に入っていると言われる。マーシャ・ガッセン著、青木薫訳「完全なる証明」(2009年、文藝春秋 2014年、文春文庫)

・金井教授が10年前の米国の文献(注)から引用して、ミリタリー・リーダーの
支持率が80%であるのに対して、ビジネス・リーダーのそれが28%、
という事実を紹介しているが、企業にいる者としては残念であり、
なぜそのような大きな差があるのか、ビジネス・リーダーへの信頼は
かくも低いのか、と痛恨の思いを禁じ得ない。
(注)Bruce J. Avolio and Fred Luthans The High Impact Leader: Moments Matter In Accelarating Authentic Leadership Development, McGraw-Hill, 2005. この数字はギャロップ社調査結果。
・組織の長の使命と決断の結果に対する責任の差がその理由ではないだろうか。
悪い結果がおきたことに対して、最近は経営者がすぐに謝罪すれば誠実だと
評価される風潮があるが、謝罪の事実だけでそのように評価することに
違和感がある。
その後の修正力の有無と修正の結果を含めて評価されるべきだと思う。
・経営者や司令官といった組織を率いる者には、誤りを起こさせないプロセスの
構築と維持にも責任がある。
誤りを発見したときの決断と対応の早さも重要だ。
今年(2015年)も国内外で多数の企業不祥事があったが、なぜこんなに大事
になるまで放置したのかと思うことが多い。
かつての公害企業なども自らの過ちを認めずに先送りさせたが故に、
被害は意味もなく甚大化し、さらには自社を衰退の道に追い込んでしまった。
向き合いたくない事実を前に、そのことにどう対峙(たいじ)し、迅速に
どう行動していくのかがリーダーたる者は常に問われる。

・ハーバード大学のジョセフ・L・バラダッコ教授の「静かなリーダーシップ」(注)
という著書は、10年以上前に日本語版が刊行されたが、最近新聞で
紹介されて話題にもなっている。
自らが正しいと信じることを周囲と自分の両方に配慮しつつ、リスクを
取りながらも静かに実践していくことの重要さを説いている。
(注)ジョセフ・L・バラダッコ著「静かなリーダーシップ」(高木晴夫監修、夏里直子、渡辺有貴訳。翔泳社、2002年)
・金井教授はサーバントリーダーシップは日本が大事にしてきた発想に合い、
日本人がもっと取り入れたら良いと説いているが、静かなリーダーシップも
同様だと思う。
・日本の文化に合ったリーダーシップが世界的にも注目されている。
研究を続けていきたい。

2015年の年末の一夜、参加者から発言と意見交換が熱く交わされました。
次回からグリーンリーフによる本文に入ります。
第二期第4回(通算第59回)の読書会は、1月22日(金) 19:00~21:00、レアリゼアカデミーで開催予定です。

[注]上記本文の中で「サーバント」と「リーダー」あるいは「リーダーシップ」ということばを「・(中点)」で区切るケースと続けて記述するケースがあります。協会での検討の結果、サーバントリーダーなどと続けて記述することを基本としますが、本書の引用など、原典に中点があるものはそれに従います(ちなみに協会の名称も、当初、中点があるもので登録したため、これに基づきます)