グリーンリーフの著作としての「サーバントリーダーシップ」は、彼の執筆、雑誌原稿、講演録などを集めて1977年に刊行されましたが、その後、2002年にフランクリン・R・コヴィーやピーター・センゲの寄稿などを追加して再刊されています。
本読書会で使っている日本語版(再刊時の邦訳)は、神戸大学経営学部の金井壽宏教授の監訳、金井真由美さん(注、お二人には親族、血縁などの関係はないそうです)の翻訳により2008年に英治出版より刊行されました。
日本語版には金井壽宏教授の解説が掲載されています。
第2期の学習会では、最初にこれを会読しています。
金井教授の丁寧ながら親切な解説で、サーバントリーダーシップの全容を知ることができるのみならず、そこに書かれた金井教授のサーバントリーダーシップへの熱い思い自体が500ページを超える日本語版を読み通して、サーバントリーダーシップの真髄に近づこうという勇気と希望をもたらしてくれるものだからです。
【監訳者解説(今回の読書範囲の抜粋)】
・サーバント・リーダーシップとの改めての出会いは、(中略)世界をリードする七十九名ものビジネス思想家の理論や持論を満載した『経営者革命大全』(注1)を監訳する機会を持ったときのことだった。
この著者たちは、数あるリーダーシップ論の中で、グリーンリーフのサーバント・リーダーシップ論に特に注目していた。
(注1)ジョセフ・ボイエット、ジミー・ボイエット著、金井壽宏、大川修二監訳、日経ビジネス人文庫、2002年。新装版2014年
・さて、私自身の著書では『組織を動かす最強マネジメント心理学』(注2)の中で、初めて本格的にグリーンリーフの思想を紹介した。
(中略)その後、比較的大勢の方の目に触れたのは、日経ビジネスのコラムにおいて、本社部門の役割について特集があった際に、寄稿した時の文章だ。
(注2)金井壽宏著、中経出版、2002年
・日経ビジネスの記事を目に留めてくださったのが、資生堂トップの座についたばかりの池田守男社長(当時)だった(注3)。
それを読んで「人事部長だけの話ではない、資生堂では、社長自らが全社員を支えるサーバント・リーダーでいくんだ」と決心してくださり、新聞にそういう思いを述べられたりした。
(中略)そして大変ありがたいことに、池田氏と共著で『サーバントリーダーシップ入門』(注4)を世に問うこととなった。
(注3)2013年5月20日逝去。生前、日本サーバント・リーダーシップ協会の顧問も務められた。
(注4)金井壽宏、池田守男著、かんき出版、2007年
・(サーバント・リーダーという)字句が不思議なことに自家撞着するような二語を組み合わせていることだ。
そのような用語法を撞着語法(オキシモロン oxymoronという語は、ギリシャ語でoxyは鋭敏さ、moronは愚鈍さ)と呼ばれてきた。
・ここに通常のリーダーシップ論が想定しがちな、カリスマや英雄のイメージはない。
また並外れたオリジナリティや、絢爛で勇猛なリーダーシップ論の新機軸があるわけでもない。
しかし、不思議にも、そこにこそ、穏やかながら、心から信じることができるリーダーシップ像がある。
・リーダーシップの権化のお湯な方にも、少し気持ちを鎮静させるために本書を読んでほしいし、逆説的だが、リーダーという柄ではないというコアたにも、こんなスタイルだったら自分も
リーダーシップを発揮できるのではと思える可能性が大いにあるので、そんな希望を持って、本書をひもといてみてほしい。
・すべてのタイプの方々に本書をお薦めしたいと思う共通点は、サーバント・リーダーシップという考え方と実践法が、これまでのリーダーシップ論に代わるオルタナティブであるという点にありそうだ。
金井教授の解説を会読して、参加者からそれぞれの意見や思いが表明されました。
・ある素材メーカー企業で品質保証の仕事をしている。
金井教授が本書の読み手として期待している本社(本部)要員だが、金井教授の主張通りで黒子として事業部の強みを生かすことが使命と思っている。
事業部に対して高圧的に出ると彼らはついてこない。
正しいこと高圧的にいうとさら動かなくなる。
・消費財メーカーで研究開発に従事しているが、最近、現場を知ることの大切さを痛感している。
お互いを尊重し、しかし安易に依存するのではない関係を築く経営方針が浸透している。
経営者は「現場」「現物」「現実」の三現主義に「現在」という現状に安住しないという意図の用語を加えているが、こうした考えが現場力を強めている。
・会社を経営している経験から、従業員満足が顧客満足を生み、それが利益を生み出していくことを感じている。
自らの経営品質を正していくことが企業力の源泉である。
・外資系企業の本部で働いていた時の経験だが、自分達の組織が現場に貢献するための標語として、「for them」「to them」「with them」「by them」を掲げた。
自分達の存在を意識させないでしっかり貢献する「by them」を目標としていた。
・フォロワーが自然に行動する「状況」を作ることが肝要。
上長の強要というか部下が「やらないと上司に怒られるから」という動機で働くと、その行動が企業理念やバリューなどの本質から離れていく。
何よりも上長が正しい判断、正しい指示をしている内はまだしも、判断を誤った場合に深刻な問題を起こしかねない。
・日本において外資系企業はトップダウンがきつい、という感を持つがどうなのだろう。
・総論では決められないが、外資系の場合、code of conduct(行動規範)が明確で、その範囲内であれば自由というケースが多い。
日本企業の場合は思考、判断、行動の自由に「きつさ」を感じることが多い。
ただ、「ものづくり」における品質の良さ、均質性は総じて日本企業の方が高いレベルにある。
・勤務先でトップが示したビジョンには「(その企業が所属する)業界での最上位となるとともにその業界の発展」という意図が込められている。
しかしながら現場ではそれが浸透せずに内向きの権力争いが絶えない。
所属する組織で上長が不在となると組織メンバーが思い思いの方向に動き出し、若手から「優先順位がわからない」という訴えがあった。
副長の役割がある自分としては、いろいろ考えて「迷ったら顧客第一でいこう」と周囲に伝えたことで、メンバーの迷いがなくなってきた。
組織リーダーの仕事は職務の技術上の選択よりもビジョンの共有が重要だと感じている。
・勤務先の業界は10年ほど前まで絶好調だったが、7年ぐらい前から低落傾向にあり、現在、業績は好調時の3分の2程度になってしまった。
組織内にも迷いや混乱が見られる。
その中で自分も「顧客第一」という主張をしてきた。
当初は反応が薄かったが、徐々に浸透してきている。
メッセージはすぐには伝わらない、少しずつ時間をかけて伝わっていくものだと痛感した。
・職場で若い部下が多いことからお互いの尊厳を傷つけないように自分の意見を開示する
「アサーティブ・コミュニケーション」を心掛けている。
若い人の場合、いろいろなコミュニケーションに慣れていないという理由で、納得がいかないまま上長の言うことに従っているということが多数ある。
・大学の助手として学生を始動する役割を担っている。
最初の頃は指導者然として頑張っても学生をリードできなかったが、学生が大学を通じての生活を充実させることが自分の任務と意識して行動するようにしたところ学生がついてきてくれるようになった。
その経験の中で、さらに日頃から学生と対等に交流していくことが相互の理解と協力に不可欠であること、また考えているだけではなく、実際に行動することの重要性を学んだ。
・今、自分は哲学者のアリストテレスが著書「政治学」(注)で述べた「実際に奴隷である人、あるいは自由民である人のすべてが、生まれながらに奴隷または自由民であるとは限らない。自分の人生の舵を握り、主人となって文字通り、主体的に生きる人は、例え生まれた身分が奴隷であっても、彼は奴隷ではない。」
という趣旨ことばに感化されている。
この教えから自分のサーバントリーダーは自分自身である、と思っている。
(注)邦訳は、山本光雄訳、岩波文庫、1961年。
牛田徳子訳、京都大学学術出版会、2001年など
・組織の長の中に、部下から厳しい内容の情報が上がってくると、それが正しい内容であってもネガティブな評価を与える人も多い。
自己肯定感が低く自分に自信がない、言い換えれば謙虚でないともいえる。
サーバントリーダーシップの要素には「謙虚力」というものがあると思う。
・人、特に上の立場にある人が自らの間違いを認められることは「誠実」の証だと思う。
さらにリーダーはそのときどきの状況に応じて、自信をもって自分の意見を主張したり、逆に一歩引いたりと行動様式を使い分けていくことが肝要だ。
・人は初歩的なことを親や先生、先輩から教わるという時期がある。
そうした学びの時期を経て、自立していく。
組織でも同様でリーダーはフォロワーやメンバーの成熟度に応じて行動を変えていく必要がある。
人の話を聞いて状況を見極めて判断できることがリーダーに求められる能力だと思う。
・組織のポジションに関わらず、周囲と対等でアサーティブな関係を築けることがリーダーの資質と考える。
反対意見は表面的には「対立」ではあるが、反対意見を述べる相手の意図を信じられるかどうか。
これには、自分の信念に自己満足に堕さない高い美意識があるかどうかが鍵になる。
・現在のように混迷し重苦しい雰囲気が漂う時代であればこそ、真のリーダーが多数輩出されるようにしていきたい。
初めて参加された方を含めて、みなさんから多数の意見や見解が示され、熱い議論が続きました。
次回、第二期第3回(通算第58回)の読書会は、12月25日(金) 19:00~21:00、レアリゼアカデミーで開催予定です。
[注]上記本文の中で「サーバント」と「リーダー」あるいは「リーダーシップ」ということばを「・(中点)」で区切るケースと続けて記述するケースがあります。
協会での検討の結果、サーバントリーダーなどと続けて記述することを基本としますが、本書の引用など、原典に中点があるものはそれに従います(ちなみに協会の名称も、当初、中点があるもので登録したため、これに基づきます)