過去の活動報告

【開催報告】第二期第1回(通算第56回)東京読書会

開催日時:
2015年10月23日(金)19:00~21:00
場:
レアリゼアカデミー

生涯を人材育成とリーダーシップの本質究明に尽くしたグリーンリーフは1904年に生まれ、1990年にこの世を去りました。
彼の研究は、当時、全米最大すなわち世界最大の人員規模を誇る企業であった通信会社AT&Tでの人事関連の仕事を通じて、そしてAT&Tを退職した後の各方面でのさまざまな活動に基づく実践的なものです。
グリーンリーフは多数の経験や見聞を彼の豊かな知識と教養に基づいて分析し、真のリーダーシップの姿やあり方を明らかにしていくことに努めてきました。
その生涯が20世紀という時代にほぼ重なるグリーンリーフの成果は、20世紀の象徴たる巨大で高度に組織化された企業社会の中におけるリーダーシップ論の一面を持ちます。

グリーンリーフの著作としての「サーバントリーダーシップ」は、彼の執筆、雑誌原稿、講演録などを集めて1977年に刊行されました。
その後、四半世紀たった2002年にフランクリン・R・コヴィーやピーター・センゲの寄稿などを追加して再刊されました。
再刊時に出版が期待された邦訳は、2008年に神戸大学経営学部の金井壽宏教授の監訳の下、金井真由美さん(注、お二人には親族、血縁などの関係はないそうです)の翻訳により2008年に英治出版より刊行され、本読書会はこの日本語版を利用して開催されています。

日本語版には金井壽宏教授の親切な解説が掲載されており、第2期の学習会では、最初にこれを会読することにしました。
初回は「監訳者序文」と「監訳者解説」の冒頭です。

【監訳者序文(抜粋)】
(本書は)大声を出して、ぐいぐい引っ張る、どちらかというと目立ちたがり屋向けのリーダーシップ・スタイルは、自分には向かないと思っておられる方には特にお薦めだ。
一見すると穏やかで地味だけれども、肝心なところでは静かに支えてくれる奉仕型のリーダーの薦めだ。
みんなを力強く引っ張るのがリーダーだと思っていた中、リーダーがフォロワーに尽くすのが一番自然だとさらりと述べた。
(中略)和歌のもつパワーについて紀貫之は、「力をも入れずして天地(あめつち)を動かし」と述べたが、そんな響きがサーバント・リーダーにはある。
本書は、提唱者自身による、最も信頼できる元祖サーバント・リーダーシップ論を提供するものである。
これまではリーダーシップなど柄ではないと言っていた人が、違うタイプのリーダーシップがあるのだと気づいてくれる。

【監訳者解説(抜粋)】
本書は、もともと一九七七年に出版されたが、その後も長く読み継がれてきた。
(グリーンリーフ)センターは、グリーンリーフの考えを実践的に広めるために活動をますます活発に(中略)。
グリーンリーフ・センターの十カ国目の支部がわが国に開設されている。本書の発刊を機に、日本支部でも活動が盛んになることを期待したい。

(注)特定非営利活動法人日本サーバント・リーダーシップ協会は、この日本支部をNPO法人化したもの。

グリーンリーフは、根っからの実践家でありつつ、深い思考のできる人だった。
サーバント・リーダーシップ論は、実践家グリーンリーフ自信の経験と内省と思索に基づく持論の見本である。また同時に、倫理的にぶれないインテグリティ(誠実な高潔さ)を保つことを望む経営層、また経営幹部候補にとっては、リーダーシップ持論の手本でもある。世の中には、経験を内省し、そこから教訓を引き出し、言語化している人がいる。暗黙のままにせずに、サーバント・リーダーシップという言語を作り、また、その条件を明示しようとする点が肝心だ。

金井氏の解説を会読して、参加者からサーバントリーダー、サーバントリーダーシップに関するそれぞれの意見や思いが表明されました。

・サーバントリーダーを目指すために、まず自分がこの人についていこうと思う人を定めて、その人の思考方法や行動を真似ていくという方法がある。
自分がリーダーと見定めた人との出会い、機会を生かしていけるかが大切だ。
・軍隊組織では組織がまとまって合理的に行動する必要があるので、トップダウンで指示がなされてきた。
最近はテロやゲリラなど予測のつかない敵行動への対応、つまり正確で迅速な判断が必要となっており、がわが国の自衛隊を含めて現場判断の重要性が強く認識されつつある。
・What(何)、When(いつ)、Where(どこ)は上官のもの、How(いかに)は現場のものということだろう。
・山本五十六元帥に「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ。」という名言があるが、これの続きは「話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず。やっている、姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず。」というものである。
本当のリーダーシップを必要とする組織におけるリーダー育成の原則は時代を超えて普遍性がある。

・ラリー・スピアーズがまとめたサーバントリーダーシップの10の原則 (本書 p.572-573)には同意するが、傾聴や癒しが集団の甘えを生むことにならないかと懸念する。
リーダーが聞き役に徹するということも、現実の世界では「自分の上司は決断力や指導力がない」といった評価になることが多いのではないだろうか。
現場での振る舞いをどうしていくか、ということが重要そうだ。
・部下を受け入れ、しかしながら部下に媚びるのではない、という姿勢は、そのバランスのとり方が難しい。周囲が良質なフォロワーであることが必要条件だ。
周囲をフォロワーとして一人前にしていくこともリーダーの重要な責務だと思う。
・女性が店長、店員を務める店舗を展開するビジネスに関わっている。
店の中で店長が店員に迎合した運営を行うことを「おかあさんマネジメント」と呼んでいる。
こういう状態を回避するために、店長に「どのような店にしたいか」というビジョンを明確にするように本部が指導している。
リーダーがしっかりしたビジョンをもつことで、メンバーの意見も冷静に受け入られるようになる。

・自分の経験や内省を言語化する難しさに直面している。
これらをうまく伝えられる「ことば」に悩んでいる。
どのようにすれば自分のイメージを他人に正しく伝えられるのか、そのために実践すべきことは何か、ということを常に考えている。
・メンバーの認識の共通化や意識の統一を図るために、集団での討議や個別面談を繰り返し実施している。
組織全体で熱く語れるようになるに従い、部下に対する細かい指示が不要になってきた。
・メンバーの意識統一には組織の持つ本来の風土や気風といった要素も大きい。
自分の前職は完全なトップダウンスタイルだったが、現在は、メンバーは本質的に対等という意識の企業に所属している。
後者でも中の組織単位で上司となる人間の意識差があるが、その差はそのままエンゲージメント・スコア(注)に結果として反映されている。
(注)従業員の企業への所属意識の強さを定量化したもの
・ある会社の総務の仕事に携わっている。
親会社から出向で来ている上司がいわゆる「手柄独り占め」タイプ。
上司との人間関係に苦労してきたが、考え直して、その本人に尽くすように心がけてみた。
その結果、その上司の態度が変わってきている。
理屈で考えるよりも行動していくことが大切だと学んだ。
・比較的若い内に100人規模の組織を任された。
その規模の組織となると下位に組織を作り階層化して、運営するのが当然のこととなるが、その中でもトップが末端まで直接につながるチャネルがあることが重要だと思う。
わが国の政治を見ていても思うことだが、間接民主主義では、多数の末端の思いが施政者に伝わらないことが多すぎる。

・保育事業に関わり、園で責任者を補佐し、良い園を作ろうと園全体で努力している。
この業界は資格をもった若い保母が不足していて、引き抜きが激しい。
昨日まで一緒に良い園をつくろう、と語っていた若い保母が翌日に「よその給与の方が良いので、こちらを辞める」ということが時折発生する。
その前日の熱い語りを思い出して、自分たちは何のために苦労しいているのか、と思い悩む。
・自分が所属する業界でも部下が育ってくると、さらなるステップアップを図って転職していくことが多い。
内心とても残念なのだが、自分の意識を改めることで、本人のモチベーションを重視して新天地で活躍してくれれば自分のことのように嬉しい、と思えるようになってきた。
・外部で活躍できる人は、自分が最も輝く場で活躍すれば良い。
人を育てるというよりも育つことを補助することを大切にしたい。
美味しいごはんを炊くためには、やたらにかまどにまきをくべるのではなく、
時に抑えつつ、じっくりと炊き上げ十分に蒸らして、米がその旨さを自ら発揮するようにしていく必要がある。
米が自分で自分のうまさを発揮するような火加減ができるようになるのは難しい。
良い人材の育成も似たようなことなのだろうと思う。
そうやって人を育てられるようになることを自分の喜びとしたい。
・組織に新たに参加してくる人に、自分たちの理念を説明して、それに同意できるかどうか時間をかけて十分に確認している。
そうでない人は技術があって有能でも、やがて目指す方向が異なることがお互いに認識した時点で関係が上手くいかなくなるので、あえて採用しない。 また会社内で時間外に読書会も実施している。
組織に所属する自分たちの思いが共通していることを確認することに役立っている。
ちなみに、今は新渡戸稲造の「修養」を読んでいる。
・欧米や中国などの海外では職員がステップアップのために転職を繰り返す
ことが当然のように思われるが、自分が所属する組織ではこれらの国でも定着率の高い。
なぜ残っているのか、と質問すると、上司が好きだとか、仲間が良いといった人間関係を挙げるケースがほとんどだ。
上司がいかに環境を作っていくかに鍵がある。

各自の理想とするリーダーシップを熱く語りながら、真のリーダーシップを探す旅が始まりました。
次回、第二期第2回(通算第57回)の読書会は、11月27日(金) 19:00~21:00、レアリゼアカデミーで開催予定です。

[注]上記本文の中で「サーバント」と「リーダー」あるいは「リーダーシップ」ということばを「・(中点)」で区切るケースと続けて記述するケースがあります。
協会での検討の結果、サーバントリーダーなどと続けて記述することを基本としますが、本書の引用など、原典に中点があるものはそれに従います(ちなみに協会の名称も、当初、中点があるもので登録したため、これに基づきます)。