過去の活動報告

【開催報告】第53回 東京読書会

開催日時:
2015年7月24日(金)19:00~21:00
場:
レアリゼアカデミー

本書にはマサチューセッツ工科大学上級講師で、組織学習協会(Society for Organization Learning、? SoL)創設者で、「学習する組織」の理論で有名なピーター・M・センゲの寄稿が「終わりに」として掲載されています。
センゲは本書をアメリカン・リーダーシップ・フォーラムの設立者で「シンクロニティ」などの著者であるジョセフ・ジャウォースキーから贈呈され、そのジャスウォースキーは米国の保健福祉教育長官を務め、教育行政やリーダーシップ研究で名をはせたジョン・ガードナーから本書を推奨されたとのことです。
これらの権威ある人々がグリーンリーフを真のリーダーシップを追究している人として評価し、彼の著書を読むことを強く推奨したのです。

センゲは「奉仕するための学び」という小見出しのついた解説で、「サーバント・リーダーとは、第一に奉仕する人だ。それが自然な感情としてわき上がり、人に奉仕したい、まず奉仕したいと思わせる。権力、影響力、名声、富を欲したりしない」というグリーンリーフのことばをサーバントリーダーシップの精神の表現としています。
そして権力や影響力の取得によるモチベーションという面をグリーンリーフも無視はしていない点に読者の留意を向けつつ、奉仕することを最優先として、かつその純粋な気持ちとして持ちうるか、と問いかけます。

センゲはその課題を解く鍵として「コミットメント」を挙げています。多くの人が「心の底からのコミットメント」とは「疑念のない信念よるものであるべきだ」、と考えることに異を唱えて、「疑念という影に身を置いたときにしか、われわれは自分と意見の異なる人の声に真剣に耳を傾けたりしない。(中略)われわれは学ぶ機会がない。」と説いています。
100パーセントの信念の価値を認めつつも、真実への道を見失わないように「不確実性を抱きながらも奉仕することがわれわれには求められている。」と真のリーダーが直面する困難について解析しました。
さらに、リーダーとフォロワーの関係において「真のコミットメントは、実際にほかのひとのための選択を生み出すのだ。」と強制ではない共感のリーダーシップの考え方を導き出しています。

センゲは、一方で「コミットメントの最後の特徴は脆弱性だ。」と書いています。
多くの人の通常の理解に反する内容ですが、この逆説的な要素が人の効果的な力を引き上げる、という論理展開です。
リーダーの役割とは人々を真実に導くためであり、そのために他者への奉仕と謙遜、すなわち自己への冷静な視線を必要とするという主張と考えられます。

最後に日常で陥りがちな「権限」と「リーダーシップ」の混同を回避すべしとの注意は、情報や判断が上層部に限定され、それを当然のこととしがちな企業社会への警句とも言えます。
センゲはリーダーシップを階層から独立したものと考え、彼が設立した組織学習協会(SoL)では、「リーダーシップとは“人間社会の未来を方向づける、人間社会の能力だ”」と定義しました。
まさにグリーンリーフが長年にわたって研究したリーダーシップの本質を突いた定義です。
そして重要な変革プロセスは、傑出した個人によってではなく、多くの人間の関わりによって成し遂げられることに言及しつつ、その広範囲菜実現のために、社会の「いたるところ」にサーバントリーダーが出現することを望みつつ、「真のリーダーシップとは、きわめて個人的なものでありながら、本質的には集団的なものなのだ。」と彼のサーバントリーダーシップについての解説を締めくくります。
センゲの熱意にあおられるように、参加者による議論が始まりました。

・センゲの解説でコミットメントについて、詳細に書かれている。
リーダーシップを形作る重要な概念であるが、原語をそのままカタカナ表記にした日本では、意味が単に「上から与えられる予算目標」だったり、かなり曲解されて使われることも多い。
・コミットメントには「自主性」が伴う。
自主的に設定した目標であればこそ、コミットした人が一心不乱に取り組む。
周囲が働きかけて、その人を一心不乱にさせるのは、とても難しい。
・企業などの組織に、ミッション、ビジョンが明確に存在することで、従業員は
やる気になるのではないか。
・真のコミットメントの条件は、その中に脆弱性を内包すること、という意味のことが書かれている。
一心不乱に取り組むという姿勢の中に脆弱性が存在する、もっと直截に不確実性が存在する、といわれることを自分の中で十分に消化しきれていない。
・本書の中で、デビット・パッカードに「人を率いるリーダーシップとは何か」と質問して、デビット・パッカードから「秘訣はない、自分がやりたいことをやってきただけ」というエピソードが書かれている。
まさにHPウェイと呼ばれる企業理念であり、従業員の尊厳を尊重する考え方である。
企業としての方向がきちんと示され、従業員はそれぞれの目標の方向性を
企業の向きに合せ、そして結果にコミットメントしていく。
・日本では、基幹産業である自動車メーカーでの動きが特徴的だ。
日産自動車の経営が厳しい状況に陥ったときに社長に就任したカルロス・ゴーンは、
彼の最初の経営方針である日産リバイバルプラン(NRP)を遂行するに当たり、現場に対して細かい指図はしななかった。
従業員みんなのなかに答えがあるという考え方によるものだ。
ホンダは本田宗一郎と藤沢武夫が両輪となって牽引してきた会社だが、当初、鼻っ柱の強い藤沢は、自分こそが経営者として最適、と会社の乗っ取りを考えていたという話がある。
その藤沢が本田の偉大さや表面には見えない強さに触れて、生涯を黒子、すなわちサーバントの役割に徹することと決意した。
・エクセレントカンパニーの事例を交えたセンゲの解説の中に、スピアーズがまとめた「サーバントリーダーシップ10の原則」(注)がしっかりと埋め込まれている。
まず「説得」。
これはむしろ構成員による納得ということばの方がしっくりと来る。
「人々の成長に関わる」ことで思わぬ力を引き出すことができる。
「コミュニティづくり」も重要なことだ。
こうしたすぐには目に見えない力を発揮できるかどうかが組織の成熟度度であると思う。

(注)本書p.572-p.573

・米国の経営者はコーチングを受けることが多い。
メンターやあるいはコンサルタントとしての役割を求めることもあるが、
自らを鼓舞するために、自分の「鏡」としての役割をコーチに期待することが多い。
スティーブ・ジョブズが率いたアップルは、各担当が割り当ての分野の
成果に対して無限の責任を負う代わり、周囲の関わりの低い人による干渉も、中途半端な協力も排除した。
その結果、世界を一変させる製品ができたのだが、同時にトップであるジョブズには強いプレッシャーがかかっていた筈だ。
・米国の事例に即すと日本企業の文化はあいまいで無責任な感があるが、
野中郁次郎氏がとなえたミドルアップダウンの経営をマイケル・ポーターが「戦略がない」といったことに対してヘンリー・ミンツバーグが
「あれは成熟の証」と反論(注)したように、スタイルの違いである。
日本の場合は、江戸時代の和算の実力は当時の西洋の数学以上であり、
識字率も高いという歴史の中で、トップがすべてを牽引することとは
異なる文化が育まれてきた。

(注)参考:M.ポーター「競争戦略論Ⅰ」(竹内弘高訳、1999年、ダイヤモンド社)、H.ミンツバーグ「戦略サファリ」(齋藤嘉則監訳、1999年、東洋経済新報社)

・第二次世界大戦後、米国は日本の財閥を解体したが、あとになって日本経済の基幹は財閥ではなく、自立的な中小企業群に存在していたと気がついた。
小さな企業の集まりが力を大きな力を発揮した。
目に見えないリーダーシップが働いていたのだろう。
・日本企業の中に「喫煙室の文化」と呼ばれるものがある。
公式の会議では建前が討議され、決議されるが、実際のことつまり本音は
会議室からも執務室からも離れた喫煙室で語られる、という意味だ。
・「喫煙室の文化」には、権限がない人や事案に直接関係のない人から良い意見が出てくることがあるなどのメリットもあるが、なぜ会議室で正面から真剣に語り合わないのかというもどかしさもある。
トップの強権という意味では欧米やアジアでも他の国の方が強く、その意味では日本では、公式の場で多くの人がもっと語り、討議していけば良いのだが。
・その点では日本人は会議やコミュニケーションのスキルをもっと高めて行く必要がある。
良質なリーダーシップが発揮される行動様式を組織として持たないといけないだろう。

センゲのメッセージに強く刺激され、会読者による活発な議論が続きました。センゲが寄稿した「終わりに」の会読を終え、次は「7つの習慣」でよく知られるスティーブン・R・コヴィーの「前書きに代えて」の前半を会読する予定です。

次回の読書会は、8月23日(金) 19:00~21:00 レアリゼアカデミーで開催予定です。