グリーンリーフの「追記」には「サーバント・リーダーとは誰か」という副題がついています。
冒頭で「実例から判断すれば、すべてのサーバントがリーダーとは限らないのだろうか。」という多くの読者が持つ疑問を投げかけ、サーバントリーダーの特性とサーバントリーダーによる社会改革の実現の要件を述べていきます。
社会を家族や職場などの第一階層、明確な価値観を与えられる大学や教会を第二階層、ビジョンと希望を育んでくれる神学校と財団を第三階層と定義付けて、サーバントリーダーが活躍する場の重要性が説かれます。
サーバントリーダーは、社会的な権力構造とは無縁に自らの確信に基づいて行動し、その行動によってリーダーシップの手本を示すからです。
わずか2ページの文章ですが、参加者の活発な議論が行われました。
・かなり難しい、というか解らないところが多い。
「まず奉仕して、その後に導く」というサーバントリーダーシップの外観は理解していたつもりだが、この「追記」はすぐに理解できない。
・リーダーシップ発信の第三階層として神学校が挙げられているが、我々の感覚としてはこうした精神的な世界からリーダーシップが広がるということに理解が及ばない。
・真のリーダーは自分が信じた道を進むということが重要。
単なる「善い人」とは違う。
わずか2ページの文章だが、そのことは良く伝わってくる。
・「世間的に見れば、サーバントリーダーは無邪気な存在…」という箇所(p.522)
が印象に残っている。
原文では naive(ナイーブ)であり、グリーンリーフの意図は訳されているが(注) そのような人物にひとがついていくのだろうか。
(注)naive(ナイーブ)は、そのままを記した外来語あるいはカタカナ英語では「繊細」「傷つきやすい」という意味があるが、原語では「世間知らず」「無邪気(若干肯定的ニュアンス)」などの意味で用いられることが多い。
・本書の第1章に「サーバントを見分けるにはどうすればいいか」という文がある。
例示としてケン・キージーの「カッコーの巣の上で」の主人公、マクマーフィーが挙げられている(本書p.98-99)。
やんちゃな彼の姿にグリーンリーフがリーダーとしての資質と行動力を見いだしているのは興味深い。
・場を作ることの重要性とそれを可能とする人の重要性。
そこに存在するだけで場を整え、周囲を豊かにし、周囲の今まで以上の力を引き出す人がいる。
そうした人が登場する環境はおのおのであり、登場の方法もさまざまだ。
発揮されるリーダーシップの形もいろいろなのだろう。
陳腐なビジネス書などにあるようなステレオタイプの行動ではない、
周囲にいかに気づかせるかという力である。
・グリーンリーフがそうしたことを実現する環境や実現の方法について
期待を込めて書いている。
短いながら濃い内容だった。
本書にはマサチューセッツ工科大学上級講師で、組織学習協会(Society for Organization Learning ? SOL)創設者、「学習する組織」の理論で有名なピーター・M・センゲの寄稿が「終わりに」として掲載されています。
センゲは本書をアメリカン・リーダーシップ・フォーラムの設立者で「シンクロニティ」などの著者であるジョセフ・ジャウォースキーから贈呈され、そのジャスウォースキーは米国の保健福祉教育長官を務め、教育行政やリーダーシップ研究で名をはせたジョン・ガードナーから本書を推奨されたのだろうと推測しています。
これらの権威ある人々がグリーンリーフを真のリーダーシップを追究している人物と評価し、彼の著書を読むことを強く推奨したのです。
センゲが本書の重要性を主張するのは、現代社会を「組織の失敗」の時代と定義した上で、本書がそのような社会を真に変革する価値を内包していること、さらに、現代社会を変革する革新的な組織が求められるコミットメントに言及していると読み取ったからです。
センゲは、彼が研究を重ねた組織学習が内包する問題点について、グリーンリーフは良く理解していたと見ています。
強い願望が真の学習意欲を呼び起こし、トレーニングの繰り返しの上で変化を得るという過程に関連して、センゲはグリーンリーフの「いかなる成功も、まず目標を立てることから始まるが、ただ目標を掲げればいいわけではない」という言葉に共感しています。
さらに、能力開発において不可欠な「複雑性の理解」について、グリーンリーフが概念化を「最も重要なリーダーシップ能力」と説いていることに、センゲが重きを置く「複雑な状況を複雑なものとしてとらえつつ、その状況をしっかりと把握する能力」との共通性を感じ取っています。
「誰かがわれわれを変えてくれる」という願望、「変革を拒む人々をどうにかできないものか」すなわち、自らが仕掛けた「変革への共感」を「他から与えられる」ことを排し、みずからが変革をコミットメントすることを迫るセンゲは、グリーンリーフがその道筋を見いだしているとしているのです。
センゲの熱い文章にあおられるように参加者の討議が活発に行われました。
・「組織の失敗」ということばから、名経営者といわれた人が引き際を誤って老害となっているケースが多いことを連想した。
後進を育成することの意味、これは職人などの世界での技術伝達と同じことだ。
・現代社会は人間や組織の相互関係がアンバランスとの感じを強く持っている。
組織や社会の環境側塁方向にあると認識しても、打ち手が対症療法的であり、結果的に事態は総合的にさらに悪化する。
今の時代は、社会の根源的なコントロールが不可能な事態に陥っている。
・センゲが複雑性を理解することの重要性を説いている部分が興味深い(本書p.533)。
複雑なものを単純化することは、自分たちもしばしば行っているが、
「要は・・・」という言い方で要約しても本質を間違えていることが多い。
平易に語ることと端折ることを混同してしまう。
・経緯を無視して、結論としての回答を求めることが多すぎるように思う。
・現代は「答えありき」という考え方が強い。
正解が存在するという考え方が、物事の多面的な見方を阻害することがある。
未来から現代を見るという姿勢がわれわれの進むべき方向を示してくれるが、正解を求める姿勢がそうした見方を阻害する。
・ゴーン革命とも呼ばれる日産自動車の改革の特徴は、業務改善の手法をV-upに集約して、各現場には、もっぱら課題形成にのみ注力させていることにある。
業務改善では手法の優劣を競うことが多いものの、実際には大差がなく、
時間と労力の無駄になりがちである。
V-upに集約することで、この無駄を省く。
また課題形成には自部署のみならず他の組織の要員が
CFT(クロス・ファンクショナル・チーム)として参画する。
これにより、その組織の過去の経緯などの「しがらみ」を離れて課題を客観的、多面的に形成できる。
サーバントリーダーシップとはリーダーが一人とは限らない概念と理解するが、CFTなどは他人の課題において複数のサーバントリーダーがいるとも考えられるのではないか。
・センゲは、組織が意図的に危機を醸成して変革を促すことがあることに
言及している。
文脈から否定的な見方をしていると思うが、自分もこうした危機に追い立てられるような方法が良好とは思えない。
そうでないとすれば、組織の成員の意識づけと正しい方向を見いだすことをどのように進めていくべきか。
リーダーシップの本質の課題と認識する。
次回の読書会は、7月24日(金) 19:00~21:00 レアリゼアカデミーでの開催を予定しています。
ピーター・M・センゲが本書に寄稿した「終わりに」の後半を会読します。
次回もまたセンゲを通してグリーンリーフの思想に迫っていきたいと思います。