過去の活動報告

【開催報告】第48回 東京読書会

開催日時:
2015年2月27日(金)19:00~21:00
場:
レアリゼアカデミー

グリーンリーフは学生に「若いうちに、生き方を確立してください。最適な結果をもたらす前兆となる生き方を。若いうちでなければ、手に入れることは難しいでしょう。もちろん、若くなければ無理だと言うつもりはないですが、容易なことではありません」と訴えかけ、「生き方について考える一つの指針」として、次の五つの言葉を紹介しています。

「美」、グリーンリーフはシェークスピアなどの美の定義を引用しつつ、ここでいう美にふさわしいものとして「数学的な解法で未知なることを理解し、新しい洞察がひらめいて人間の知識が向上するとき、それは美しいと言われます。」と述べます。
さらに、人としての生き方を確立することで「‘計り知れぬ、謎に満ちた自然の意図’に触れることができる」とベートーヴェンの弦楽四重奏曲第14番(嬰ハ短調、作品131)が持つ時代を超越した曲想と調性の展開を例として「美」の意味するところを訴えました。

「即時性」、これについては「社会を変革し、美徳と正義、自分自身の信念に従って世界をより良くする義務があると感じている人間はもっぱら、‘今日こそ!’という姿勢をとっています。」と聴衆である大学生、すなわち若者にチャンスをつかむ少数の人の心得を伝えています。
「どんな瞬間も永遠性が内包されています。(中略)‘今’という瞬間に目を向けるべき」と、人生において躊躇することを回避するように訴えました。

「開放性」、ここでは「聞けば知恵、話せば後悔」というイタリアの諺を引きつつ、「聞くというのは姿勢、他人が話すことや伝えようとしていることに対する姿勢のこと」であり、「(他者に)心から関心を寄せる」ことの重要性を説いています。

「ユーモア」、グリーンリーフは「どうやったらわれわれは、この世の中を作り変える機会に対応できるようになるでしょうか」という自問に対して、「自分自身が愚かで中途半端な生き物だと思った時に、ユーモアと呼ぶ、穏やかな内なる微笑みがあれば可能でしょう。」と回答し、若者たちに生きるヒントを与えました。

「忍耐」、この言葉には「心に平静さを持ちながら、苦しみに耐える能力」というオーソドックスな意味からロバート・フロストの詩を引用しつつ説明を加えています。
そして「究極の悩みは、他人の苦しみを通じて苦しむことです」と、共感の重要性を訴えています。

グリーンリーフが示す5つの言葉を読んで、参加者による議論が始まりました。

・他者の話に心から関心を寄せることはとても難しい。
家族との会話でも、相手の意図が話の内容ではなく、文脈というか話の「行間」に本意があって、それを理解できずにコミュニケーションが成立しないことがある。
・メラビアンの法則(注)は、情報の受け手側の差異の比率のことであるが、情報を発信する側のいろいろなシグナルをバランス良く受け止めないといけない。
(注)米国心理学者メラビアンの調査。情報の受け手の認識は、視覚から55%、聴覚から38%、言語(内容)から7%という比率である、というもの。

・会話だけではなく、読むことにおいても同様の難しさがある。
書き手の意図をきちんと受け止めていられるのかどうか、自信を持てないことも多い。
・医療の分野では、過去は医師の主観でカルテをとっていたが、現在は
「患者が語ることをそのまま聴く」というスタイルに変わり、教育もそのように行われている。
言うは易いが大変に難しいことである。
・オープンコミュニケーションで、相手の中に入っていくことが重要。
自分からコミュニケーションをとるときは、相手の心への「ノック」の仕方が大切である。
・生徒や部下、後輩の指導においては、詳細に進む道を用意しすぎると逆効果になることもある。
教えすぎないことが肝要と思う。教えるということについて、教える側の自己満足が目的となったり、評価の基準になったりしているケースが多い。
・吉田松陰が牢の中で、収監された者同士で得意な分野について教え合ったという故事は、牢獄の中に適当な教材がなかったことも要因だろうが、教育と学習というものの本質をついていると思う。
一橋大学の野中郁次郎先生が「場」を作るということを提唱されている。
この「場」という言葉に対応する外国語、例えば英語の単語ないということだが、それはともかくとして、場を作るということはサーバントリーダーの一つの要件であるように思う。

グリーンリーフは、前記の5つの言葉を「内なる優雅さに根を張った生き方」にとって不可欠であるとしています。
彼は学生に対して「人生で何かを得る以上に、何かに貢献」する人生が価値あるものであると定義しつつ、官僚主義的な社会において「規律を意識しつつ、成熟した人間らしい人生で反官僚主義的な影響力としててきせつに機能する生き方を築いていく」ように、と説いています。

さらに「建設的な活動の中心には必ず、責任感のある人物が存在し、(中略)現実の問題に取り組みます」としつつも「残念ながら、家庭生活から社会生活にいたるあらゆる場面でこうした人材が不足しています。
有能な人材は豊富ですが、批評しかできず、ただの専門家にすぎない」と彼が当時(1966年)の米国やそれを取り巻く世界に抱いていた危機感を表明しました。
この視点は現代米国の最高の知性と良心を代表すると言われるケネディ政権下の教育タスクフォースメンバーであるジョン・ガードナーと一緒です。
グリーンリーフはそうした社会の改革に向けて聴衆を鼓舞していきます。
若い聴衆がそれを実現できるように「美に対する感性」「ユーモア」「心の平静」の育成と習得を唱え、さらに加えて、ニコス・カザンザキスの言葉を引用して、自らの強い信念をもって美徳と正義に従って社会の変革に向かうように若者を促しました。
その道筋で達成する偉業こそ、庭先で目に留まる一角獣であるとして、「明日の朝、一日を迎えるとき、一角獣を探してみてはいかがでしょうか」と語って講演を結びました。

グリーンリーフの熱気の余韻さめやらぬ中、参加者の意見も熱く交わされます。

・ギリシャ神話に基づいた名称であるが、時間には「クロノス時間」と
「カイロス時間」の2種類がある。
前者は時計が刻む時間の流れを、後者はさまざまな営みの中で認識する時の流れを意味する。
グリーンリーフが「今を積み重ねた移動平均」と言っているのは、カイロス時間のことだと思う。
・グリーンリーフが大切にするようにと訴えている「今」は、「未来」との対峙した「現在」であると思う。
・学生たちへのメッセージだけで「ユーモアを持つ」ことを推奨しているのも面白い。
人間は自己のことは正当化して高く自己評価しがちで、自分が劣っていることを認めるのが苦痛である。
自己を評価するのにユーモアを持って、「劣っている自分」も許して受け入れることを勧めているように思われる。
・産業カウンセリングの基本は傾聴にあるが、米国のカウンセリングの大家であるカール・ロジャースは「自らの内面に入らなければ、他人のことを傾聴できない」としている。
・官僚主義に抗うように学生に主張しているが、ある意味でとても壮大な提言である。
古代中国以来の科挙制度の官僚制にせよ、近代欧米の官僚制度にせよ、批判精神が欠如して柔軟性と健全性を喪失することが多いことが官僚主義の欠点でもある。
・この講演は1960年代の米国で行われているが、同時代の米国では、たとえば国防長官のロバート・マクナマラの下で硬直した軍事・国防政策が展開され、世界一の大国である米国が東南アジアの小国であるベトナム(北ベトナム)についに一敗地にまみれる結果となった。
・ロバート・マクナマラは、当時の米国でもっとも優秀と言われた分析能力を持ち、彼の理論はオペレーションリサーチ(OR)として広まっている。
そこまでの秀才をもってして、思考が硬直化していった。
その過程には、自己の高い能力と強いリーダーシップを過信し、周囲には分析に必要なデータのみを求め、他者による分析の結果の意見は受け付けなかったそうだ。
常に多忙で、周囲と対等に話をする時間もなかったらしい。
効率を突き詰めた結果であるが、一つのリーダーシップだけで動くと方向の修正が効かないことがわかる。
・組織の上に立つ者の心得は、唐の時代の「貞観政要」(注)以来、傾聴と需要ということが訴えられているが、長い時間をかけても実現しないということらしい。
(注)7世紀半ばに「貞観の治」と呼ばれる善政を行った、唐の太宗の言行を呉兢がまとめたもの。帝王学の基礎と言われている。
・日本には日本の良さ、米国井は米国の良さがある。
現実主義、実用主義の徹底ということでは米国に一日の長がある。
人生の道、未来への方向を明確に示しているこの章、あるいは本書を通じて、そうした米国の良さを感じることが多い。

今回をもって、第9章「官僚主義社会におけるサーバントとしての責任」を終えました。
次回は第10章「アメリカと世界のリーダーシップ」の全文を会読します。
次回の読書会は3月27日(金) 19:00~21:00 新レアリゼアカデミーで開催予定です。