過去の活動報告

【開催報告】第45回 東京読書会

開催日時:
2014年11月28日(金)19:00~21:00
場:
レアリゼアカデミー

カールトン大学の学長を辞した後もカウリングはメニンガー研究所やミネソタ大学の薬学部はじめ多くの組織に彼の才能を捧げていました。
いずれの組織でもトップの座(本書内では「責任を負う役割」)につかなかったことについて、グリーンリーフはプリマス会衆派教会牧師のハワード・コン博士のことばをきっかけにカウリングの真意を探り、そこからカウリングという人物の本質を解明しようと努めています。
コン博士がカウリングの告別式で、「(前略)カウリング博士は・・・祈りこそが人の感性を刺激し、天地万物に宿る神の創造的な自発性へと導いてくれ・・・人生のすばらしさと神秘さへ感謝の気持ちを捧げる機会をもたらしてくれ(る、と考えていた)。キリスト教的な同胞として愛する隣人へのカウリング博士の優しさは、それ自体彼にとって父なる神への礼拝行為でした。」と語りました。
この弔辞をもとに、グリーンリーフはカウリングについて、「(カウリングは常に問題の渦中にあるが、)問題に取り組む中で、学長の信念と行動は見事に調和していた。これは彼の生き方を語る上で揺らぐことのない重要な要素だ。」と述べています。
大学運営に注力中のカウリングは、議論を持ちかけたグリーンリーフに組織運営について語ります。
「問題の渦中にいつも身を置いておくことだよ!」、成功の秘訣を問われたカウリングの回答です。
カウリングはグリーンリーフからの厳しい質問に、「人間の作った組織など脆弱で、間違うことも多い。人間そのものが脆弱で間違いが多いからだ。・・・しかし、強い意志を持ち、能力があって、誠実な人ならいったいどうするだろう・・・自分にできる限りの貢献をして、ときには譲歩することも、報われないこともあるが、何もしないよりはいくらかましだ、と覚悟を決めるべきなのか(後略)」とものごとへ取り組む姿勢を説明しています。
カウリングの人となりを会読して、参加者からの発言が始まりました。

・「問題の渦中に身を置く」というカウリングの言葉に触発されている。
ものごとを無難に片付けようとせず、正面から取り組む姿勢を示したものと思う。
今の会社生活でも問題に真剣に取り組むことで、顧客との信頼関係の強化につながるといったことが何度もある。
・カウリングは自分とは関わりのない問題についても「この問題に対して、自分ならば、どう立ち向かうか」という課題で常日頃考えたいたのではないだろうか。
それがあればこそ、本当のトラブルにおいて、冷静に適切に対処できたのだろうと思う。
・新たな問題に直面しても解決案が示されない、他者も解決策を持ち合わせないというときに頼れるのは自分の信念だけである。
グリーンリーフは「自分が正真正銘の忠誠を誓えるものに献身することだ」とカウリングの思いを伝えているが、正真正銘の忠誠を誓う対象を得ることが難しい。
全くの暗闇の中にいて、ここにもいつか光が当たるということを信じ通せるかという課題提起である。
・さまざまな問題や課題に正面から取り組みながら、カウリングが生涯心身のバランスを保っていたことすばらしい。
レリジエンス、人間の心身で言えば回復力や耐久力といった意味であるが、高いレリジエンスを持ち合わせている。
・心身のバランスには言行を一致させることが重要。
「組織の論理」が企業理念などの「ことば」と実際の「行動」をしばしば乖離させることがあるが、これはストレスを貯める大きな原因となる。
・自分は企業を経営していく中で、従業員個人の経験や価値観を尊重しつつ、組織共通の価値観を醸成するために行動規範を明確にすることを心がけている。
組織のメンバーが相互に認め合いつつ、経営者である自分の理念や規範を知ってもらうために、通り一遍の説明ではなく、常時ことばと行動で示すように努める。
組織の行動規範に則っての失敗はとがめない。
これを突きつめていくことで、今では指示命令系統を示す組織図も、そして指示命令自体も不要になっている。

学生との接触においても自らの立場をわきまえて清廉な姿勢を示すカウリングにグリーンリーフは大いに感化され、久々の再会となったメニンガー研究所のパネルディスカッションの席上、カウリングへの謝意を伝えます。
「(前略)ひとつは、ご自身の天職への模範的な姿勢に対して・・・ふたつ目は・・・私がいくつかの出来事に遭遇したとき、私のそばに先生がいらっしゃったこと・・・窮地に立たされた若者の気持ちを理解してくださった(後略)」
別の大学教授から「感謝の気持ちを伝えられるのは成熟したものの才能だ。そして若者は往往にしてそれを持ち合わせていない」という言葉を聞いたグリーンリーフは、カールトン大学を卒後業してからカウリングに感化され、感謝の念を持つようになった自分に気がついていったようです。
グリーンリーフはスティーブン・スペンダーの「真に偉大であった人達」という詩を引用しつつ、この評伝の最後を次のように結んでいます。
「(前略)自分の名誉を署名した、生き生きとした空気を彼は残したのだ。天職であるカールトン大学の創設にすべてを捧げた彼の献身、自由への情熱、精神解放への情熱、そして彼の魅力的な人間性は、偉大さの証であり、私はその偉大さの前に畏敬の念に打たれてひれ伏してしまう。こうした人材の育成がいつの日かカールトン大学のため、そして社会のために彼が残した財産となることを祈っている。」

・他人に教えるということは本質的に難しいことである。少なとも自分が理解している範囲でしか教えることはできないし、教えることから何かを教わるという姿勢を崩してはいけない。
孔子の「学びて思わざれば則ち罔し、思いて学ばざれば則ち殆し(注)」という言葉につながる。
(注)読みは、「まなびておもわざれば、すなわちくらし。おもいてまなばざれば、すなわちあやうし。」論語の中の言葉で、「学んだ結果を自分の考えに変えていかなければ身につかず、自分で考えるだけで他人から学ぼうとしなければ、考えが凝り固まって危険である」といった意味。
・感謝ということを重要視している。
技術研修においても感謝を受容するように指導している。
感謝というものが人間的に成熟してこそわかる感覚ということに同感する。
・組織の中での行動規範は、個人が成熟する方向を示すものであるべきであると思っている。
今できることを全力で突き詰めるなかで、「ありがとう」という感謝の言葉がまったく自然に出てくる。
そうした組織が周囲から見られることで見えてくる姿が本当の意味でのブランドである。
・従業員には教えるのではなく、伝えるようにしている。教えるという行為はどうしても知識という量的な情報を扱うことになり、受け手のキャパシィティー、つまり理解力や記憶力に依存してしまう。
伝えるという行為に注意することで、情報の量という性質をなくすことで相手の理解に限界が来ることがなくなる。
・カウリングは自らの行為に周囲からの見返りを求めていない、未熟な学生がカウリングの献身に感謝することがなくても、それを意に介さず、不満を持っていない。
こうしたカウリングの内面性や信念が実に興味深かった。

これで4回にわたったグリーンリーフによるカウリングの評伝を読了しました。サーバントリーダーシップの概念を確立するグリーンリーフの原点に触れ、会読の中で、われわれも多くの示唆を得ることができました。次回の読書会は12月12日(金) 19:00~21:00 レアリゼアカデミーで開催予定です。