過去の活動報告

【開催報告】第6回 近代の優れたリーダーに学ぶSL研究会~新渡戸稲造~

開催日時:
2014年8月25日(月)19:00~21:15
場:
レアリゼアカデミー


新渡戸の生涯は多岐に亘り、多くの分野で重要な業績を残しています。
あまりにも幅広く活躍したため、一口で言い表すのは困難ですが、大きく分ければ、①教育、②植民学、③国際理解と平和、という三つの分野にまとめることができます。

教育の分野においては、母校札幌農学校の教授、京都帝国大学教授、第一高等学校校長、東京大学教授として、人格教育に基づき多くの青年たちを育てました。
また女子教育の振興にも力を注ぎ、東京女子大学の初代学長も務めました。
札幌においては、就学機会に恵まれない貧しい子供達のための無料の夜学校である「遠友夜学校」を開校し校長になりました。
新渡戸は貧しい人々、困っている人々を目の当たりにした時、見て見ぬふりをすることが出来ず、その解決のために立ち上がる人でありました。
この「遠友夜学校」の働きを見る時、その中にはサーバントリーダーシップの「5つのバリュー」や「10の特徴」が全て網羅されていることを発見します。
また武士道の観点からは、弱者や劣者や敗者に対する「仁」(惻隠の心)という「サーバントハート」そのものになります。

植民学の分野においては、台湾総督府に招かれ「住民の利益を優先する」という考えを第一に置き、台湾における農業の振興に大きく貢献しました。
砂糖の生産高は5年間で5倍に増え、台湾の財政は予想よりも5年早く自立することが出来ました。
戦後台湾の総統となった李登輝は、新渡戸の生き方に大きく感化された一人で、2006年には「武士道解題」を出版しました。
その中で「新渡戸稲造先生を、台湾が社会的基盤創建の曙時代に、我々のパイオニア的指導者として迎え入れることが出来たのは、実に幸運で誇らしいことでした」と述べています。
新渡戸は「公に仕える奉仕者」であり「変革リーダー」でもありました。

国際理解・平和の分野では、英文で「武士道」を出版した他に、特に日米間の交流と相互理解に貢献しました。
第一次世界大戦後に国際連盟が創設されるとその初代事務次長に就任し、オーランド諸島の領土紛争を平和的に解決しました [新渡戸裁定]。
またアインシュタインやキュリー夫人らを委員とする知的協力委員会を創設し、その幹事役を務めました。
この事業は現在ユネスコに受け継がれています。
事務次長退任後も、太平洋問題調査会理事長に就任し「平和の使徒」として、満州事変前後の暗雲が垂れ込める中で、世界平和の実現に心血を注ぎました。
新渡戸は「義と平和の実現」のために仕えました。

新渡戸が英文で「武士道~日本の魂」を書くきっかけとなったのは、ドイツに留学中、ベルギーの碩学ド・ラヴレー教授が発した「宗教教育なくして、どうして道徳教育が出来るのか?」という問いかけでした。
「武士道」は欧米人に対して、日本人の物の考え方や行動を支配する倫理道徳思想について説明をしようと試みたものであります。
新渡戸は武士道を「武士の掟」、すなわち「高き身分の者に伴う義務」(ノブレス・オブリージュ)であると言っています。
「武士道」の第三章~第七章まではそれぞれ「義」「勇」「仁」「礼」「誠」の各徳目について解説されています。
「義」は、いま一つの勇ましい徳である「勇」と双子の関係にあり、「義を見てせざるは勇なきなり」とあります。
「仁」は慈悲の心であり、「礼」の最高の形態は愛に近づきます。
「誠」は「言」うを「成」すであり、言行一致(インテグリティ)に繋がります。
サーバントリーダーの定義としては「大義あるミッション・ビジョン・バリューを示し、それを遂行してくれるメンバーに奉仕する人」とか「サーバントハートを持った変革リーダー」とか「この人について行きたいと思わせる人」等があります。
以上のことから推察すると、サーバントリーダーは大義を実行することから「義」と「勇」の徳目を備え、サーバントハートの持ち主であることから「仁」と「礼」の徳目を備え、ついて行きたいと思わせる人から「誠」の徳目を備えていると、考えることができます。
そして、新渡戸稲造こそ武士道精神の体現者であり、サーバントリーダーそのものであることが良く理解できます。

当日の参加者のアンケートからは、以下のようなコメントが挙がってきました。
・武士道の内容をサーバントリーダーの切り口で考える視点が勉強になりました。
リーダーシップの実践の結果が人生を築いていくと改めて感じました。
・新渡戸稲造の人生と武士道について学ぶ中で、サーバントリーダーの資質が表れていて感銘を受けた。
・時代が急に変わる中で、自分の志(太平洋の橋になりたい)を強く持っていたことが、彼の体幹になったのだと思う。
その後の彼の活躍は志をしっかり持っていたからだと思う。
・読書会でサーバントリーダーシップについて読み解いていますが、実際に体現している人を通して学ぶということは、大変理解が深まります。
・新渡戸は一昔前の時代に生きた人だが、今彼の言葉を聞いても、すごく斬新で先進的な考えを持つ人という印象を受けた。

次回は新渡戸稲造シリーズの第二弾を予定しています。