過去の活動報告

【開催報告】第三期第1回(通算第97回)東京読書会

開催日時:
2019年3月22日(金)19:00~21:00
場:
レアリゼアカデミー(麹町)

今回より東京読書会では、ロバート・K・グリーンリーフ著「サーバントリーダシップ」(日本語版、金井壽宏監訳、金井真弓訳、英治出版、2008年)の3回目の会読を開始します。
記念すべき今回は、「はじめに」と題された序論を会読しました。
グリーンリーフによるこの厚い本は、彼の著作や、専門雑誌などへの寄稿、講演録などを集めて、内容に応じて整理し、それを章立てした構成になっています。本書の米国での初版はグリーンリーフの生前、1977年に発行されました。その中で「はじめに」はグリーンリーフ自らによる本書の案内として書かれたものですが、彼がサーバントリーダーシップの考えに至る経緯や時代認識、本書の構成と読者への期待などが簡潔にまとめられています。決して長い文章ではありませんが、サーバントリーダーシップの全貌を知るために重要な部分です。

【会読内容】
・1904年に生まれたグリーンリーフは、1920年代の半ばにカールトン大学に入学したが、「大学四年生になって半分が過ぎようとしていた頃、私はまだ将来の道を明確に決めて」いませんでした。ある日、グリーンリーフはオスカー・ヘルミング教授の一言に強い影響を受けます。「(中略)老教授はこんな主張を始めた。“わが国には新たな問題が生まれている。アメリカは大きな組織に支配されつつある。教会、企業、行政機関、労働組合、大学といった組織だ。こうした大規模な組織に人々はあまり奉仕していない。(中略)公共の利益を求めて、より優れた行動がとれるように人々を導いていける、または導きたいという人間が、組織の内部にいなければならないのだ(後略)”」
・オスカー・ヘルミングの一言をきっかけに、グリーリーフは当時世界最大の企業であったAT&T(アメリカ電話電信会社)に就職しました。入社初年度の終わりには、早くも12人の作業長を相手にする研修コースの指導者を任されています。23歳のグリーンリーフは彼らのファシリテーターを務める一方で、多くの経験を積んださまざまな年齢層の現場実務者からの多くのことを学んだと回想しています。
・その後もAT&Tでは経営調査部長などを歴任し、1960年代になって退職した後はコンサルタントとして活躍しました。
・こうした多様で刺激的な仕事を通じて、また1960年代末期から70年代初期にかけての米国での大学紛争を目の当たりにして、グリーンリーフは徐々にサーバントリーダーシップの概念を固めていきます。
・本書の構成について彼は次のように書いています。「本書の第一章“リーダーとしてのサーバント”は、一九六九年に書いたものだ。大抵の学生たちが当時は―現れ方は違うが、今でも―、希望を持っていないようだったことを危惧したためである。希望とは、精神のバランスのためみも、人生全般のためにも欠かせないものだろう。希望を得るための基本構造を求めて、さらに二つの論文が生まれた―“サーバントとしての組織”と“サーバントとしてのトラスティ” ―それが本書の第二章と第三章である。
残りの章は二十年以上にわたって、論文や講演のために書いてきたものだ。それぞれ別の角度から私の願いを述べている(後略)」
・グリーンリーフは、「大勢の人が理事や役員の座に就いているが、名目だけの地位である場合が多い」と指摘し「嘆かわしいことに、われわれは反(アンチ)リーダーの時代に生きている」と現代への警鐘を鳴らし、「巨大な教育構造の中では、リーダーを育てるとか、フォロワーシップを理解させるという点にあまり注意が払われていない」と訴えています。
・グリーンリーフはさらに以下のように述べています。「リーダーはスキルや理解力や精神力を備えて、奉仕のために努力してほしいし、フォロワーたちには自分たちを導く有能なサーバントだけに反応して欲しい(中略)識別能力と決断力を兼ね備えた、フォロワーとしてのサーバントは、サーバント・リーダーと同じくらい重要だし、誰もがその両方の役を演じる場合があるかもしれない。」
・こうして彼は複雑化した現代における真のリーダーとフォロワーの出現を待ち望みながら、本書を構成する数々の著作、論文を書いていきました。
・グリーンリーフは「はじめに」の最後の箇所で、読者に以下のような注意を与えています。「問題の一部は、“奉仕する”と“導く”(注)という言葉が使い古されたもので、否定的にとらえられていることだ。だが、このふたつは良い言葉だし、私が伝えたい言葉は、ほかに見当たらない。たとえ古くてすり切れ、破損したものだとしても、捨て去る必要なない。見直して、また使うべき言葉もあるのだ。私にとっては、それが“奉仕する”と“導く”に当てはまる。」 本書を読み進める中で常に念頭に置いておくべきことがらです。
(注)原著では、奉仕する=serve、導く=lead という用語が使われています。以下の章においても、 おおむねこの用語とその派生語が使われています。
日本語版で8ページの文章でしたが、参加者はそれぞれ触発され、活発な議論が始まりました。

【参加者による討議】
・よきフォロワーがいることで、よきリーダーシップを発揮できると思っている。真田理事長が著した「サーバントリーダーシップ実践講座」(中央経済社、2012年)でもリーダーシップはフォロワーの支持があることで発揮できると書かれている。自分の勤め先では、特定分野で専門性を発揮する専門職が実力を発発揮できるように努めている。
・今回会読した“はじめに“を要約したペーパー(注)を読んだが、リーダーが主体的に組織に関わることの重要性が良く分かる。自分が所属する企業組織へのかかわりとして、部下などいわゆる下の地位にある人たちとが能動的に活動できるようにリーダーとして振る舞いたいと思っている。
(注)読書会参加者の一人が任意作成、当日の読書会参加メンバーでシェアした。
・ここで描かれた組織像は、現実にはいまのところ存在し得ない、to-be の世界で語られた感がある。グリーンリーフの著作から40年を経ているが、本当のリーダーを育成するという点では、まだまだではないだろうか。
・最近、ティール組織に関するセミナーに出てきた。ティール組織とは、昨今、知られるようになってきた概念で、組織の形態の進化を色にたとえる。力での支配であるレッド組織から、徐々にメタファーとしての色が変わり、科学的な管理手法を取り入れたオレンジ、そして最後に生命体としての青緑色を意味するティール色(注)の組織に至る。組織も上意下達のヒエラルキー構造からホラクラシーと呼ばれるフラットな組織に変わり、組織を構成する個人が、それぞれ自主的に行動計画を立て実行する(注)
(注)ティール色。青と緑の中間色である鴨の羽(かものは)色。
(注)フレデリック・ラルー著「ティール組織」(嘉村賢州解説、鈴木立哉訳、英治出版、2018年)
・会社の中からホウレンソウ(報告、連絡、相談)を廃止し、ホラクラシーの実現を進める未来工業のような実例も出てきている。グリーンリーフのサーバントリーダーシップの初版が刊行された1977年から約40年、グリーンリーフが説いたワンネス(一体化)とインテグリティー(高潔さ)の実現が端緒についているともいえるだろう。
・ティール組織が機能して、その有効性が証明されるには、組織の中の情報が完全にオープンになり、その環境の中で、構成員ひとりひとりが自立することが求められる。
・ティール組織の基本条件としての情報のオープン化について少し述べたい。自分は勤め先で社内管理の仕事を担当し、給与計算などにも携わっているが、社内でいろいろな情報をオープンにすることを求められつつもそれが実現できないという現実に直面している。その理由は上に立つ人が情報のオープンについて、部下より強くリスクを意識していることにある。
・情報の開示の成否は、企業のトップや管理職が従業員を信頼できるかどうかにかかるのだろう。

・企業がティール組織となって成功するには、その企業の製品開発が自然発生的に行われればよい。企業も少人数であればトップダウンで回せるが、かなり実力のあるトップでも一人でマネジメントするのは30人程度が限度だろう。
・ティール組織の企業という考え方には、これからの時代に向けたいろいろな可能性や魅力を感じるが、実際問題として製造業にはティール組織やホラクラシーという考え方はなじまないように思える。
・米国の靴や服飾の通販事業者であるザッポスは、カスタマーサポートに徹して顧客要求に個別対応して靴の製造と販売を行っている。工業製品に対する消費者要求が one to one になっていく中で、多くの製造業にもこれまで予想できなかった変革の時代が来るかもしれない。その中でのリーダーシップのあり方が厳しく問われるだろう。

・グリーンリーフの「サーバントリーダーシップ」初版刊行から40年、その間に米国でも日本でも多数の大規模な組織が変化、ときには崩壊してきた。外部環境は要因によると思われる組織の劣化や悪化も、その組織に内在する要因が大きく影響している。それと同じ視点だと思うが、グリーンリーフは組織の中から導くというスタンスでリーダーシップを考え抜いた。組織の中で人を導くことが、組織の内側からの変革を実現させると考えていたのだろう。
・現在、公務員として働いている。変化がないと思われがちな役所も時代とともに大きく変わってきている。もちろんルーティーンの仕事には、昔からやり方が変わっていないものも多い。そうした仕事の担当を任されると、どのように変えていくのか、踏み出す第一歩がわからない。その決断がリーダーシップなのだとはわかっているのだが。
・企業や役所の経営のことはわからないが、そうした思いが伝われば、周囲は必ず反応するように思う。ラリー・スピアーズがまとめたサーバントリーダーシップの10の属性(注)にある共感とは、他者に寄り添うことができることを意味している。組織も人が構成している以上、その関係者は、共感、つまりお互いが寄り添うことを求めている。
(注)グリーンリーフの弟子であるラリー・スピアーズがグリーンリーフの唱えるサーバントリーダーシップを研究して10の属性としてまとめた。概略は本書日本語版p.572-573参照。
・サーバントリーダーシップ10の属性が恋愛の要素に似ていることに気がついた。お互いが恋愛関係にあれば、相手の話をしっかり聞くだろうし(傾聴)、相手の気持ちに寄り添い(共感)、相手の考えを受け入れる(受容)など。リーダーシップに相手に対する愛情という要素があることに気づかされる。
・先日(3月9日)のサーバントリーダーシップフォーラムで共催者の青山学院がグローバルレベルのサーバントリーダーの育成に向けて、自らの学院生に、まず友人となることを推奨していることが印象に残った。相手に対して能動的に関わることの重要性が見て取れる。

・勤め先の中を見ていて、運営がうまくいっている課などの組織には、その中で雑談が多くなされていることに気が付いた。それによって組織を構成する人の中に同じ空気が作られる。雑談が多いと、仕事への取り組み姿勢が疑われてしまうが、そうした組織はいざというときに一体感がすぐに生まれ、組織力の発揮が素晴らしい。
・製造業の町工場を引き継いでいるが、この規模の会社にはマニュアルがない。ことばと行動で仕事のやり方やコツを伝承していくのだが、たしかに日常の雑談の中に伝承の種が潜んでいる。
・雑談の重要性は頭ではわかるが、実際には、話の内容に目的がない、いわゆる雑談はつい忌避してしまう。忙しいときに周囲の雑談に参加するのは、ほんとうに面倒だ。組織の中の人間関係を保つためにやむなく参加することもあるのだが。
・勤め先で昼休みにランチ用の弁当を買ってくるのを習慣としているが、しばしば上司である女性のマネージャーから自分の分を買ってきてほしいと頼まれる。当人は弁当にこだわりがある人なので、自分なりに当人に飽きが来ないように毎回いろいろ考えて、弁当を買ってくるようにしている。そんな自分の行動を上司でもある当人が見てくれて、そんなことながら自分が期待されていることがわかる。社内報告用のPowerPoint資料に好きなキャラクターの絵をさりげなく挿入したところ、女性上司がそれを見つけて、喜ばしい話題にしてくれた。そんな些細な話にうれしさを感じ、その女性上司についていこうと思っている。
・多くの場合、リーダー役を担う人は、自分には「正しい回答」が示されると考え、部下の異なった意見を退けてしまいがちだ。周囲の意見が自分の意見と異なることは当然であり、異なる意見があることを容認する姿勢が重要だと思う。

第三期第2回(通算第98回)の読書会は、4月16日(金) 19:00~21:00、レアリゼアカデミーで開催予定です。第1章「リーダーとしてのサーバント」を読み始めます。