ロバート・K・グリーンリーフの「サーバントリーダーシップ」(金井壽宏監訳、金井真弓訳、英治出版、2008年)の読書会は、前回から第8章「サーバント・リーダー」の中の2番目、ドナルド・ジョン・カウリングの評伝の会読に入りました。
グリーンリーフが学んだカールトン大学の学長を長く務め、グリーンリーフの思想形成に大きな影響を与えた人物です。
第2回目の今回は、p.421の10行目からp.434の4行目までを読みました。
ロバート・K・グリーンリーフの「サーバントリーダーシップ」(金井壽宏監訳、金井真弓訳、英治出版、2008年)の読書会は、前回から第8章「サーバント・リーダー」の中の2番目、ドナルド・ジョン・カウリングの評伝の会読に入りました。
グリーンリーフが学んだカールトン大学の学長を長く務め、グリーンリーフの思想形成に大きな影響を与えた人物です。
第2回目の今回は、p.421の10行目からp.434の4行目までを読みました。
強い信念を持って大学経営に携わったカウリングは、同時に大学教員の強い庇護者でもありました。
バプテスト派(キリスト教プロテスタントの一つ)の人々がリベラル派神学者のアルバート・パーカー・フィッチ教授を大学から排除しようとしたときは、バプテスト派を相手に丁寧にしかし毅然と対峙してフィッチ教授を擁護しています。
さらにキリスト教原理主義から大学を守るために大学の自由を重視する明確な方針を示し、教授会もこのカウリングの方針を支持しました。
20世紀前半、宗教をバックにした大学では大変に困難な問題であったと思われます。
さらに大学や教員の自治、自由とその環境を守るための学長の権限のあり方、それを表す大学憲章について、常に考えて苦心していました。
そのようなカウリングの大学学長としてのエピーソードを読みながら、参加者による語り合いが始まりました。
・最近はダイバーシティーという言葉に代表されるように、社会の中での多様性や自分と異なる価値観の受容が求められているが、実際にはなかなか受け入れられない。
正統という思想が新しい考えを拒否や排除する根拠になることもある。
とりわけ宗教にはその傾向が強い。
その渦中で対立する宗派に粘り強く説得を行ったことは、100年近く前という時代を考えると 感銘を受ける。
・正論を「愛のないせっかち」と表現した人がいる。
神学において正統を主張する人はとかく自身の信仰を絶対視しがち。
カウリングは自身の信仰とは別にいろいろな主張を受け入れている。
彼の中に「自分の神学」があって信念として確立されていたのだろうか。
・欧米企業が管理職に示すリーダーシップ原則に「決断力」が強く求められていることが多い。
リーダーが直面する困難は、目の前の現象がリーダーの決断を迷わせることだろう。
カウリングは彼自身のもつ原理原則を尊重しつつ、困難な決断を日常のものとしていた。
・カウリングのすごさは、決断の後に行動が伴うこと、そして視野狭窄に陥って頑固になるのではなく、さまざまなものを受容しつつも、本人の信念はぶれないことにある。
28歳の若さで学長に就任したカウリングは、その就任演説で、決然と決意を語ります。
「歴史の流れは容赦を知らず(中略)無力な組織や、絶え間ない時代の変化と増大する時代の要求にうまく対応できない組織のすべてを、歴史の流れは無慈悲になぎ倒していきます」と危機を表明した上で、「教育力」を最も重要な価値として、「人生への備えとなる訓練を大学が
引き受け、アメリカの他の組織には真似できない教育を施し」、「大学の存在理由と、確固とした社会的立場を提示」することが彼の学長としての展望であると述べています。
一方で、組織経営の上で現実の重要な任務である財務、つまり収益の拡大は、彼の不断の努力をもってしても、長きにわたる学長時代を通じての悩みとなりました。
しかしながら、彼は常に前向きな姿勢と見事なスピーチ、諧謔精神に富んだ巧みな応対で、この問題にも明るく取り組んでいました。
・カウリングがなぜ28歳の若さでカールトン大学の学長に推されたのか。
もちろん優秀だからだが、前述の通り決断力も重要な要素と思う。
才能は付与されたもの、一方で決断はさまざまな選択肢から選ぶこと。
この選択を不断にかつ的確に実施しうる人物であったことが重要なポイントだと思う。
・才能は他人のために使うべきもの、自分のために使うとすぐに失う、神に取り去られる。
・カウリングのすごさは、目的=ビジョンと目標をきちんとセットで語っていること。
ビジョンだけでは空虚なものになり、目標だけを言い立てると卑近になるが通常はどちらかに傾きがち。
カウリングの経営に対する概念化がしっかりとできているのだろう。
概念化はサーバント・リーダーシップの重要な属性でもある。
・中央大学の鍋山教授の感性工学の公開講座で、資料にサーバント・リーダーシップと書かれていた。
時間の都合で講義の中で語られなかったので、終了後、サーバント・リーダーシップについて伺ったところ、いろいろ説明頂いた上で、「?儻不覊(てきとうふき)」という言葉を教えて頂いた。
信念と独立心に富み、才気があって常軌では律しがたいという意味らしい。
・「?儻不覊(てきとうふき)」については、司馬遼太郎が「この国のかたち」という本の中で解説している。
(司馬遼太郎「この国のかたち」(1)、1990年文芸春秋、1993年文春文庫)
明治維新に貢献した土佐のひとびとの気質を表明する言葉として、
?(てき)は「すぐれていて、拘束されないさま」
儻(とう)は「志が大きくてぬきんでていること」、
羈(き)は「馬を制御する手綱」、
不羈(ふき)は「拘束されない」ということ、と説明している。
司馬は維新時の代表的な土佐人である中江兆民を「強烈なほどに自律的であったが、他から 拘束されることを病的なほど好まなかった。ただし頑質ではない」と描いている。
自己への強い規律を持ちながら世間から拘束されることを良しとせず、ペリーに直談判して海外渡航しようとした吉田松陰もこの気質があったと思う。
グリーンリーフが描くカウリングの思想や行動を読んでいると、?儻不覊(てきとうふき)という言葉が彼にも当てはまるように思われる。
ユーモアと過剰に深刻にならない素養をもったカウリングは、一筋に仕事に立ち向かうとともに、自己抑制の利いた良き家庭人でもありました。
多忙な中にも睡眠や運動など健康に良い生活習慣を保ちました。
彼は1907年にエリザベス・L・ステーマンと結婚し、この建設的な妻との間に4人の娘に恵まれます。
多忙な毎日に幼い娘たちは、「普通の父親像を思い描くこと」ができませんでしたが、ときには暖炉を背に娘たちに宇宙の本質を語ることがありました。
グリーンリーフは自身が暖炉の前に立つカウリングから受けた講義を良き思い出として持っており、カウリング家のささやかなできごともありありと想像できたようです。
・「人にやる気を起こさせる人」という評価が目を引く。
リーダーに不可欠な要素であり、サーバント・リーダーの本質のように思う。
スポーツでの自校の敗戦も次の成功につなげられている。
・外資系企業で示されたリーダーに必要な資質、行動様式にenvision=心に描く、がある。
楽観的な姿勢は健全でいきいきとしたビジョンを描くもとになる。そのためにも健康的で温和な生活は重要だと思う。
・カウリングの健康法は参考になる。その点、自らの生活には反省点が多い。見習っていきたい。
・前回読んだカウリング像から変化がある。前回はかなり偏狭で固い人物という印象だった。
家庭人としてのカウリングにはそうした要素が全くない。
妻や娘等の家族の影響も大きいと思うが、カウリング自身が懐の広い人物であったことは間違いなさそうだ。続きが楽しみだ。
若い時から確たる自己を確立し?儻不覊(てきとうふき)な気風であったカウリングからグリーンリーフは多くのことを感じ、学んだようです。
カウリングとの関係が深まる中で彼の多様な面に接するようになり、グリーンリーフの評伝は新たな展開を見せていきます。
次回の読書会は10月24日(金) 19:00?21:00 レアリゼアカデミーで開催予定です。