ロバート・K・グリーンリーフの「サーバントリーダーシップ」(金井壽宏監訳、金井真弓訳、英治出版、2008年)の読書会は、前回から第7章の「教会におけるサーバント・リーダーシップ」の「奉仕のための組織編成」を会読しています。
1974年8月12日にミルウォーキーのアヴェルノ大学構内の聖フランシス教育修道女会で行われた同修道会の100周年記念講演で、今回はその後半部分です。(p.384 14行目からp.394 4行目まで)
グリーンリーフは自他ともに認める敬虔なクエーカー(キリスト友会)教徒ですが、 そのクエーカー教は17世紀の英国でジョージ・フォックスによって誕生し、独自の教義を持っています。
このためプロテスタントのさまざまな宗派とカトリックが対立していたように、クエーカー教もカトリックとは相容れない部分が多くあるのですが、グリーンリーフも聖フランシスコ修道女会もそうした宗派を超えて、これからの教会の方向を模索しています。
前回会読した講演の前半部分では、グリーンリーフから「混乱は改善と飛躍の機会」という激励とともにローマ教皇ヨハネス23世(在位1958-1962)による改革を経たカトリックへの強い期待が表明されていました。
講演の前半で教会組織が直面する危機を訴えたグリーンリーフは、この厳しい言葉も「むしろ、希望を授け」るためのものである、としてモデルとなる組織の構築に向けた4つの戦略要素を説明しました。
1.並外れた奉仕をする組織には目的とコンセプトが必要不可欠であること。
規律がない状況で働くよりも、組織内で規律を受け入れて働く、文字通り「すべて」の人々の方が高い名声を博し、大きな影響力を持つ。
2.リーダーシップとフォローワーシップの理解が必要であること。
3.組織構造のありかたを設計し、権力と権限を適正に規制すること。
4.トラスティ(受託者)の必要性を認識すること。
この講演が行われた1974年の米国では、企業や大学、財団など多くの組織に欠陥が見いだされ、若い人を中心に多くの人が失望し、組織自体を否定する風潮が強くありました。
グリーンリーフは、組織は本来的に多数の人を真実に導く機能を持つという信念をもって、良き組織の構築と運営に向けて力強く語りかけます。
グリーンリーフの固い信念の言葉に参加者も触発されて活発な議論が始まりました。
・リーダーは目的を掲げて、実行することが条件。
きちんとした目的を掲げないと組織は空中分解する。
・リーダーとフォローワーが一体となって組織全体でのコミットメントをもたないといけない。
組織が存在することの意味や理念の共感が重要であり、これを気づかせることもリーダーの重要な職責である。
・長い歴史のある組織に関わっている。
組織に課題が生じたときに創立の理念に立ち返ることもあるが、行動に結びつかないことが多い。
理念に沿った行動に結びつくように成員の意識に方向付けをすることが必要だ。
・企業は創業者が理想を込めて起業しても日常活動を経る中で後継者が理念を見失うことが多い。
非営利組織のNPO/NGOなどは、その辺りが違うように思う。
・たしかにNPO/NGOは「問題意識」を核に人が集まる。
その結果、中の連帯は強いが、外との連携が弱いことも多い。
NPO/NGOの中で自己満足してしまうようなケースも散見される。
・目的や理念を掲げる企業は多いが、実態は空虚なただの言葉遊びになっていることが多い。
ただ、言葉を超えた何かが成員全員の琴線に触れてことがある。
「共感」が理念の共有を実現する。
グリーンリーフは組織の戦略要素で、「並外れた」という言葉と「すべての人」という言葉を使っているが、この二つの言葉に本質がひそんでいるのではないか。
・組織内に意図的に「共感」に参加しないメンバーがいるケースもある。
そのメンバーをどうするか、組織の長として苦しい決断を強いられる。
・10数年で世界のトップレベルになったあるIT企業では、職員の思考や行動がその企業の理念に沿ったものである場合、自分の企業名を模した形容詞をつかってお互いにたたえると聞いている。
そうした一見単純な活動が成員に理念を反芻(はんすう)させて、ぶれない組織を作っていくのかもしれない。
グリーンリーフは、「生きるに値する社会」の構築のために、組織に対して「注意を払う」こと。
これには自己犠牲や英知、タフな精神、そして規律が必要であるとしつつ、「組織に充分な注意を払う」ことは、まずその組織の人々が個人として力を注ぐことであり、その一方で「ひとりではできない」「成長をさせてくれる」という組織に内在する機能を生かすように訴えています。
リーダーシップとは、ひとりの人として現在やるべき以上のことを想定して、リスクを冒して「今すぐこれをやりましょう」ということ。
フォローワーシップもリーダーシップ同様、責任ある役割。
従う人はリーダーを信頼し、権限を与えるリスクを冒している。
組織を良き存在とするのは、実際に信念を実行すること・・・・
グリーンリーフの信念に基づく力強い提言が連綿として語られ、参加者は少しばかり圧倒されながら、提言に触発され活発な意見を出し合います。
・地位や役職だけの名ばかりのリーダーにはフォローワーが共感できない。
信念をもって行動する人に志(こころざし)を見ることができる。
そうしたリーダーに共感を覚える。
・集中していると周りが見えないと言われるが、本当の「信念」や「志」を持った人ほど、周囲に注意を払っている。
自然と気になり気がつくものである。
ゴールイメージをもっていないと周囲のことに注意がいかなくなる。
・名ばかりリーダーは、その役割をもって組織に貢献するよりも自己防衛に走ることが多いようだ。
・自分はある学生団体を支援している。
伝統ある組織なのだが、規律が失われつつある状況に注意を払わなかったため、次第に仲間内だけの組織に変質してしまった。
その結果、その組織に対して周囲が注意を払うことがますます低下し、すっかり弱体化している。
立て直しの支援をしようとしているが、糸口がみつからない。
このことを思い出した。
グリーンリーフは、この講演の締めくくりを半世紀前のクエーカー教のリーダーであるルーファス・マシュー・ジョーンズの「私たちは松明の担い手にもなれますし、小さな炎を大切に守り・・・」という言葉を引用して、「この数分間、私はみなさんに松明を渡そうと、話をしてきました。この松明を受け取ってくださいますか?」という言葉に託しました。
・カトリックのフランシス教育修道女会が他宗派の講演を受け入れていることに、その組織の柔軟さと素直さを見た。
いわば一つの「傾聴」であり、リーダーとしての資質がある証拠と思う。
・形としての組織は時間とともに変質し、消滅することもある。
しかしながら中に「価値」「尊いもの」があれば、組織の本質は残っていく。
・グリーンリーフの提言は本当に厳しいものと感じる。「会社が変わった」「企業文化を変える」など、多くの人がよく口にするが、本質的に変わらないことが多い。
その中で変わらないものを変えるリスクとチャレンジを受け入れる覚悟を求める
グリーンリーフの厳しさに襟を正す思いだ。
・グリーンリーフが掲げる「松明」をわれわれも受け取るように努めていく。
カトリック修道女会の人々は、彼の言葉をあたかも教皇ヨハネス23世を通じて伝えられる神の言葉のように受け取ったのではないでしょうか。
わたしたちもこの松明を受け取ることができるでしょうか。
強い余熱を残して読書会を終了しました。
次回は、6月27日(金) 19:00?21:00 レアリゼアカデミーで開催予定です。