ロバート・K・グリーンリーフの「サーバントリーダーシップ」(金井壽宏監訳、金井真弓訳、英治出版、2008年)の読書会は、現在、第7章の「教会におけるサーバント・リーダーシップ」を読み進めています。
今回から「奉仕のための組織編成」を読み出しました。
これは1974年8月12日にミルウォーキーのアヴェルノ大学構内の聖フランシス教育修道女会の100周年記念講演録で、今回、その前半を会読しました。(373ページ1行目から384ページ14行目まで)
グリーンリーフが17世紀のイングランドで設立されたクエーカー(キリスト友会)の敬虔で熱心な教徒であることは、これまでの会読箇所に何回も出てきました。
今回は宗派の異なるカトリック修道会での講演ですが、歴史ある修道会の100周年という節目の記念講演に、クエーカーのグリーンリーフが呼ばれることからも彼が高い信頼を得ていたことがうかがえます。
講演は「みなさんがこの修道会の過去を振り返り、その将来の計画を立てるとき、切迫感が修道院中に広がりそうな気がします。
みなさんは、どの組織も信頼できず、伝統的な価値観が揺らぎ、これまで行ってきた奉仕ももはや適切でないように思われるという、時代のさなかにいるのです。」と1974年当時の米国の時代背景を背に、カトリックの指導者に語りかけます。
会読後、参加者の討議のはじめに、それぞれが持つカトリックのイメージについて、表明し合いました。
・海外テレビドラマなどに影響されているのかもしれないが、規律が厳しく、保守的で他人に不寛容という印象がある。
・反発する勢力や違反者に対して罰を与え、他の宗教を厳格に認めないというイメージを持っている。
・海外に1年ほど居たことがある。地域には複数のキリスト教の宗派の人たちが併存していた。
その中で、カトリックは自分を絶対視して他の宗教や宗派を認めようとしない、という印象を持っていた。
・米国政府にたとえると共和党に該当するのだろうか。
カトリックに対しては、総じて「保守的で頑迷、厳格」というイメージがあるようです。
グリーンリーフは、ただ社会の不安を言い立てるのではなく「‘どこもかしこも混乱している’という」のは「チャンス」である。有能なリーダーは困難と混乱した状況を組織の存続のために生かすことができる」と述べています。
組織の混乱とは、構成員が組織の在り方に不満を持つことに起因するものであり、真のリーダーはこれを解消しうる能力を持つ、との信念からの発言と思われます。
グリーンリーフがこの講演を行った時期、米国は既成の社会秩序に不満を表明し、新しい世界、新しい秩序を求める動きが若者や有色人種などの間で盛んに行われていました。
参加者の発言も徐々に熱を帯びてきます。
・リーダーの役割の一つのパターンは、自信を失っている人に自信をつけさせ、行動を促し、変化をもたらす人、と定義できる。
自身の職場で、外部から来た組織長が短い期間で改革を実行し、組織委のモチベーションを上げたことがある。
背景には不振な職場を変えたいという意図が部外者を受け入れる組織側にもあったことも大きな要素だった。
・企業も平穏な時にはその内部をなかなか変えられない。
お互いが牽制し合ってナアナアの世界ができてしまう。
混乱の中で生じる危機感が率直な意見を引き出し、そこから企業改革が可能になる。
リーダーシップが発揮される時である。
・プロ野球の話であるが、数年前に中日ドラゴンズの落合監督(当時)が内野手の井端選手と荒木選手の守備位置を入れ替えたことがある。
レギュラーの地位が安泰だった両選手には新しい刺激になり、選手生命も伸びた。
周囲の若手にも出場のチャンスが生まれたと思わせるなど、チーム力向上に効果があったと聞いている。
・組織の質は、仕事のやり方などではなく、つまるところ人間の質、端的には人の意識だと思う。
他人を評価したり批判したりするだけでは人を動かせない。
・既存の組織が現状維持を主張するのは、変化することがそれまでの自分を否定されるように感じるからだと思う。
改革に臨んでは、人と仕事を切り離すことが必要。
切り離すためにはそれまでその仕事に携わっていた人から、きちんと話を訊く、傾聴の姿勢が必要だ。
混迷を深める世の中で、グリーンリーフは「アメリカでカトリック教会は少数派ですが、永久的に最大の力を持つ可能性がある社会的勢力だと私は考えています。」と述べ、1958年から1963年の間、ローマ教皇の座にあったヨハネス(ヨハネ)23世に強いリーダーシップを見出しています。
ヨハネ23世は、自らの絶対性を主張していたカトリックの他宗派(東方教会やプロテスタント)との融和を図り、キューバ危機に際して平和の希求を積極的に発言するなど、カトリック教会の中興の祖と目される人物です。
熱心なクエーカー教徒であるグリーンリーフが宗派を超えて、教皇の事跡を評価していることからも、グリーンリーフはヨハネ23世に真のリーダーシップを垣間見たのだろうと思います。
参加者の熱い討議は、時間が過ぎることを忘れさせながら続きました。
・否定ではなく、提案し行動すること。ビジョンを示すことの重要性を改めて感じた。
・グリーンリーフは、世の中が個人としての達成感を重要視しつつことを受け入れている。
その一方で組織による達成も評価し、組織の中での各個人の達成感を得られることに価値を置いている。
・先ほどの組織の質は人の質という意見を聞いて考えた。前章で言及された学校では研究や学問を通じて、人の質を高める目的がある。
宗教は癒しや魂の救済をもって人の質を高める。学校や教会、宗教団体では高いエネルギーで高い質の行動が求められている。
その元は倫理観であり、営利を求心とする企業活動とは異なるところがあり、強い自律性を求めている。
・この本の構成に関わる話だが、「教育におけるサーバント・リーダーシップ」の次の章が「教会におけるサーバント・リーダーシップ」であるが、この配置の意味を考えた。
どちらも倫理観を根底に据えた組織であり、グリーンリーフが良い組織を作ることに注目している。
数十年前の他のリーダーシップ論ではあまり重視されない組織自体のすばらしさに言及しているところに、彼の先進性を感じる。とても熱い章だ。
次回の読書会では、この講演録の続きを会読します。
5月29日(木) 19:00?21:00 レアリゼアカデミーで開催予定です。