今回は第7章「教会におけるサーバント・リーダーシップ」から、1974年10月5日にフレンズ・ジャーナル誌に「現代のクエーカー教徒の思想と暮らし」と題して掲載された論文を読みました。
本書の中では「知る技術」と題されています。(p.359 8行目 ~ p.372 10行目)序文にこの論文の由来が書かれていますが、本論では17世紀イングランドでクエーカー教を設立したジョージ・フォックスの事績をもとにリーダーシップを論じています。
その要諦は「身をもって知る(knowing experimentally)」という言葉に尽きます。
初期のクエーカー教が国王により弾圧され、ジョージ・フォックスや多数の信者が投獄などの迫害を受ける中で、フォックス自身は外部の権威ではなく、自らの洞察力と深い思索により得た思想を、まさに神の啓示と感じ、そこに真実を見いだしていきました。
グリーンリーフはこのことに真のリーダーシップが示されていると考えたのです。
読書会では参加者による序文と論文の全編を輪読した上で、活発な議論が始まりました。
・この論文に何度も出てくる「こうして私は身をもって知ったのだ」という言葉が印象的。
スキルや知識を頭で理解するだけではない行動の重要性が示されている。
現場で実際に見て、体験しないと分からないことは現代にもたくさんある。
・この論文にはサーバントリーダーシップの10の原則(本書p.572~p.573)のいくつかが具体的に言及されている。
傾聴や共感、これらの重要性と実行が困難なことが良くわかる。
・「身をもって知る」には謙虚な姿勢と好奇心、その両方を継続させることが必要。
・ジョージ・フォックスの事績から自分が正しいと体感したことを継続することの大切さを感じる。
自分の周囲にも困難な仕事に集中力をもって取り組んで、結果的に周囲が自然についていくという姿を見せている人がいる。
リーダーシップの一つの形なのだと思う。
グリーンリーフはこの論文でも教育の重要性を述べています。
ただし、われわれが教育という言葉から連想する客観的な知識や形式的分析、これらを偏重する教育について厳しく批判しています。
有能で道徳的な人によるリーダーシップが強く求められる時代、リーダーの責務である「真実を知る」ことは「身をもって知る」ことによってのみ達成するからに他なりません。
そして「世界中で至急求められている」のは「生まれつきサーバントになりたいと願う人」、すなわち、「他者がより健康で賢く、自由に、自律的になるよう手助けしたいと願い、自らもサーバントになりたいと願う」人であると論じています。
そして、そうした人たちこそ「他者が建設的な方向に進むのを手助けできる」人、「ヒーラー(癒す人)」であり、これが真のリーダーであると主張しています。
グリーンリーフは論文当時(1974年)の米国で、「心から必要としているのは、先に立って進むべき道を示してくれる、有能で道徳的なリーダー」と説いていますが、このことは40年後の今日、米国に限らないことと思われます。
・1974年のこの論文が書に掲載する際に「知る技術」、原題で「Art of knowing」というタイトルが付されている。
スキルやテクニックという用語ではなくアートという言葉を使ったところに、知ることについての価値観や倫理観を含む深い意味があるように感じる。
・本当に会得したい、自分のものにしたいという気持ちが学問を成功させる。
コピー&ペーストを悪用するような小手先の学習では何も得られないし、何も伝えていけない。
・最初は教師役となる人の言動をまねていくことは致し方ない。
それをどう吟味し議論して自分のものに形を変えていくかが重要。
こうしたプロセスも「身をもって知る」経験なのだと思う。
グリーンリーフはこの論文の時代(1974年)を「リーダーシップをなおざりにする」「ほとんどが、粗野な人間や利己主義者、堕落した人間の手に握られている」と定義して、「われわれは反リーダーの時代に生きているだけでなく、‘反変革’の姿勢という重荷も同様に負わされている」と批判しています。
こうした事態に対して、グリーンリーフは、変革する能力の体得、そのために現代的な意味での「身をもって知る」ことを教育に組み込むことを主張しています。
そしてこの論文は「身をもって知り、人を導き、他者に教えることができる」「才能とともに進んでいく若者たちに手を貸そうではないか!」と読み手を力強く鼓舞して終わります。
・経験によって何を得たか、何を知ったかを振り返り、次の行動につなげることが重要。
行動とともに感情を自在にコントロールすることが大切で、かつ難しい。
・経験すること、お互いの違いを認識して認め合うこと、目標に向けて意志を持って行動すること、これらの重要性を改めて認識した。
・リーダーとフォローワーが意識することで、個人に属すリーダーシップを組織が持つことができる可能性を感じた。
こうした真の意味での学習する組織が実現すれば、社会が良い方向に変革するだろう。
・組織の中での肩書がリーダーを決めるのではない。
リーダーとフォローワーが協力し、お互いに助け合い、時に立場を入れ替わっていくことで本当のリーダーシップが出現する。
読書会は今回読んだ論文からちょうど40年後に実施されました。この40年間に変わってきたこと、変わらないことを見定めて、次の時代を意識しつつ「何をなすべきか‘身をもって知る’ように」とグリーンリーフの激励が聞こえてきそうです。
次回の読書会は 4月18日(金) 19:00?21:00 レアリゼアカデミーで開催予定です。