前回から第6章「財団におけるサーバント・リーダーシップ」を読み進めています。
この章はグリーンリーフが慈善団体発行の雑誌であるファウンデーション・ニュースに1973年と1974年に寄稿した記事が核になって構成されています。
今回は1974年の寄稿である「慎重さと創造性 - トラスティの責務」を会読しました(p.341、3行目からp.350最後)
この時代、米国では財団(基金)が議会をはじめ、世論の批判の矢面に立たされていました。
ロックフェラーやフォードなどの富者が財団を隠れ蓑に税制の優遇措置を受けながら富を蓄積しようとしている、という批判です。
グリーンリーフは、この記事の冒頭、財団(基金)の特徴として次の3つを挙げています。
1. 財団は識者が撤廃すべきだと判定した、唯一のカテゴリーに属する。
2. 財団は、どの組織よりも後で批判されやすい。
(運営も容易と思われ)自分(批判者)達ならもっとうまく運営できると言われがちである。
3. 財団は、顧客や取引先による市場テストがまったくない。
そして、財団が社会的価値を存続するためには、「慎重さ」と「創造性」、すなわち、「慎重さ」は財務面などの組織運営のリスク対処、「創造性」は組織に社会に役立つアイデアを出し行動する力が重要と説き、さらに「有用な組織として財団が生き残れるかどうかは、影響力を持つ一般市民の大多数から慎重さと創造性を兼ね備えていると見なされるかどうかにかかっている」と訴えています。
これは多くの財団が「慎重さと創造性の両方のテストをクリアする組織を構築すべきだとは捉えていない」とのグリーンリーフの問題認識によるものです。
グリーンリーフはこれらの問題に対して、財団のトラスティ(報告者注:トラスティとは受託者を意味し、ここでは財団の理事を指す)は一般市民を納得させる責務があり、そのために財団運営職員とは別の顧問やコンサルタントを必要とすると説いています。
グリーンリーフは財団組織の構造にも言及しました。
「財団独自の創造的な事業を行うため、自分たちに直接報告する職員を配置すべきとトラスティに提案」し、「財団のトラスティが、社会に対する財団の義務の一部は、型にはまった考えから抜け出せるような想像あふれる事業への投資」とその意義を説きつつ「変革の第一歩は財団の<組織>構造の面で創造的になるということである」と激励の言葉を贈っています。
会読を踏まえて参加者同士の議論では、対象を「財団」に限定せずに「周囲の信頼を失った組織のリーダーシップのあり方」という点に拡張して意見の交換を行いました。
・組織が周囲の信任を失っていながらも何も変われないという事例がある。
何らかの必死の動きはあるのだが、全部内向きで内部の争いばかり。
周囲の信頼は下がる一方ながらそのことに気がつかない。
・財団と慈善団体のつながりが金銭を介したものだけに周囲を含む信頼関係を失うと大変な事態に陥る。
NPOでの経験を通じて感じたが、その組織がどれだけの価値を生む活動をしているか、金銭で測れない価値も含めて大変重要なポイントと思う。
・グリーンリーフは「創造性」と「慎重さ」の二つの要素を重要点としているが、「慎重さ」が何を示すのかがまだ理解しきれない。
ここで示されたリーダーシップのあり方を個人の活動に落とし込みたい。
今の段階では、自らの立場を理解し価値創造に向けたビジョンを形成することが「創造性」、活動が自分のエゴに陥らないようにすることが「慎重さ」ということなかと思っている。
・自治体が運営する芸術関連の施設で働いていたことがある。
新たな芸術を創造したい職員と現状を変えたくない職員が対立していた。
後者は主に自治体からの出向者で、税金による運営というに責任意識が逆効果に作用して、ひたすら実績踏襲、現状維持を主張していた。
公的支援、つまり金銭はあるのに活動にミッションとビジョンがないと目的のない迷走になる。
・100年続くシステムを作りたいと願って社内の改革を進めている。
未来はある意味で現状の破壊の上にあると思っているが、経営と現場の両方を見据えて、「創造性のある改革」と「慎重に現場の同意を得ること」を両立させたい。
改革へのロードマップを示すことが重要と考えている。
・信頼を失った組織におけるリーダーシップは難しい課題。
グリーンリーフが指摘し、みんなで議論してきた「慎重さ」と「創造性」の結果は、両者の掛け算で判定されるものだろう。
どちらかが0であれば積は0になる。
この積をどう大きくするか、積を大きくすることにサーバント・リーダーシップの本質の一端がある。
現実の場面では、まさにリーダーのあり方が問われるだろう。
・今回もグリーンリーフの提言にはとても厳しいものを感じた。
心ある財団の人ほど厳しく思うのではないか。
そして、この論文は組織の置かれた立場とそこから次に向かう方向に気づく人から何かを変えていけるのだ、というグリーンリーフの激励と読める。
現在の社会においても多くの組織で自由に動ける人、制約で動けない人、水面下で同士を募って改革を目指す人、いろいろいる。
真実に向かう人を応援し、ついていくことを激励する内容だ。
40年前の米国で書かれた短い論文でしたが、現在の状況を踏まえて活発な議論が最後まで続きました。
これで、第6章を読了。
次回から第7章「教会におけるサーバント・リーダーシップ」に入ります。
グリーンリーフは宗教の教義ではなく、人々が心のよりどころとしている組織でのリーダーシップを論考しています。
私たちも会読を通じて、広く議論していきましょう。