今回から「第6章 財団におけるサーバント・リーダーシップ」に入ります。
今回は章の全体説明と慈善団体が発行するファウンデーション・ニュースに、グリーンリーフが1973年に寄稿した「財団のトラスティ」を読みました(p.329 - p.341、2行目)
本章は、奉仕に当たって一番難しいのは、金銭を与えること、という命題から始まります。
財団(foundations)は、昨今、基金という呼称がなじみやすいかもしれません。
東日本大震災の復興支援に当たるNPOやNGOへのさまざまな資金援助の主体となるなど、日本においてもかなり身近な存在になりました。
グリーンリーフは、「財団が‘われわれ全員の利益’という前提を検討する、尊厳のある組織に変わる機会」に強い関心を寄せて、実際面からの提言を進めています。
前半を読み進めた後、参加者間で組織内の委員会やNPOでの意思決定を巡って、発言と議論が始まりました。
・あるプロジェクトでは、意欲のあるメンバーが主体的に会議体を設け、定期的に協議を進めている。
プロジェクトチームの一分科会という位置づけだが、ボランティアなスタイルでの会議運営で質の高い議論と意思決定を長続きさせる原動力となりそうだ。
・会社からトップダウンで作られた組織がなかなか機能しない。
現場から上がってきた提言をテーマにして議論しても決断ができず、「現場アンケートを実施しよう」といった結論が出たりする。
これは組織の中で「上」を見てしまうのだろう。
本来は下を見なければいけない。
自信がなく保身に走っている。
・ある一般社団法人で、いろいろと不透明感が募っている。
組織の目的に沿ってボランティアからプロまでいる組織であるが、組織、活動、金銭の収支に透明性が必要。
・米国ではNPO組織の規模(組織数や組織ごとの財政規模)も個人からの寄付金も莫大。
米国は法律や税務の面でNPO活動しやすい。
文化的、社会的背景の違いもあろう。
一方で、基金などの組織では周囲からの誘惑も多く、第三者によるチェックなど規律維持の対策が必要。
グリーンリーフは、財団の高潔さを維持するために、現在、各組織のトラスティ(受託者)や管理者が持っている権限を活用する」ことを挙げ、これがアメリカ社会全体の質を上げると述べています。
トラスティとは理事会など、組織の運営に直接に携わらない中で、組織の意思決定を行う立場ある人たちを指し、グリーンリーフは、トラスティのリーダーシップについて、多くの場所で言及しています(第3章では章全体でトラスティのリーダーシップを検討)
「高潔さ(中略)は、対処すべき状況を予期し、行動の自由があるうちに行動するという先見の明」
「こうした類の行動こそがトラスティの機能」
「自ら主導権をとって内部に高潔さを築く責務は、トラスティにとって何よりもすばらしいもの」
「財団は「公共の」ものでも、「民間の」ものでもない。「トラスト(信託)」が、財団を言い表すのに一番ふさわしい」とトラスティの役割を説き、「これまでの組織はその分野でトップレベルだとされていれば「優良」と判断されてきたが、現在はどれだけ社会に奉仕したかが、各組織に与えられる課題となっている」
グリーンリーフは、財団の未来は組織の質や高潔さ、そして影響力を構築し、それらを維持できるかどうかにかかっている、としてその役割はトラスティにある、と強く主張しています。
これを受け、参加者による議論が続きます。
・社会活動に対する民間からの寄付金は米国で年間10兆円規模、日本は1兆円規模と人口比を考慮しても5倍の差がある。
米国の規模には文化的背景の他に、行政サービスが足りないという社会的背景もある。
・米国での相互扶助についてはキリスト教の影響もあるだろう。
一方でかつての日本でも相互扶助は一般的だった。
宮本常一によれば、大人になること、つまり一人前とは地域(村落など)に力を提供することができることを意味していた
(宮本常一「ふるさとの生活」(講談社学術文庫、1986))
・自分の実体験でも、今も沖縄などで模合(もあい)という結(ゆい)や頼母子講(たのもしこう)に類似の相互出資の制度がある。
・いろいろな組織で資金を管理する人には周囲からの誘惑があり、甘言に乗る人も多い。
ただ、それは最初から個人の利得を求めてというよりも、周囲との人間関係を良好に保とうといった配慮が過度になり、やがてモラルを喪失するようなことになっているのではないか。
事態の推移する中で、人間不信に陥るケースもある。
・組織の中で高潔を保つというのは、精神的につらいものがある。
金銭の話ではないが、多くの部下との関係を公平に保つため、部下と一緒に昼食を取らず、常に一人で、という行動が必要なケースがあった。
そうして作り上げた公平を維持するために、職場に気楽な話をする場もつくれず、孤独に耐えていかなければならなかった。
・高潔なリーダーシップは、思考だけではなく行動で示さなければならない。精神的にも決して楽なものではない。
リーダーシップのもととなる高潔さに内在する厳しさを感じつつ進んだ読書会でした。
次回も財団におけるサーバント・リーダシップの学びを続けていきます。
次回の読書会は、2014年1月24日(金)19:00~21:00 レアリゼアカデミーで開催予定です。