過去の活動報告

第33回 読書会開催報告

開催日時:
2013年11月29日(金)19:00~21:00
場:
レアリゼアカデミー

今回は「第5章 教育におけるサーバント・リーダーシップ」から1974年の秋に実施されたウッドロー・ウイルソン財団が実施するシニア・フェロープログラムでの講演録である「大学における人材の活用法」(p.316、10行目 - p.328、3行目)を読みました。

日本語版の「サーバントリーダーシップ」(金井壽宏氏監訳、金井真弓氏訳。英治出版、2008)では、この講演の主題でもある senior fellowをそのままシニア・フェローと記述しています。
日本では主席研究員といった意味に使われることが多いこの用語ですが、ここでは政府機関や企業などでの社会人経験を積んだ人物が大学に赴いて学生を支援(奉仕)するプログラムを担う人々を指しています。学生はこうした人を通じて社会を知る機会が得られます。
グリーンリーフは、一般的なシニア・フェローを
1.大物、すなわち社会的有名人
2.一般的な講演やイベントを実施して貢献する人
3.自身の専門分野の知見を活かす人
と3つに類型化しています。
多くの大学がこうしたシニア・フェローに期待していると説明しつつ、ウッドロー・ウイルソン財団のシニア・フェローには異なる任務と役割があると主張しています。
その任務とは、社会的責任を担う能力とそれを発揮するための直感的な判断力や知識を持った人物を学生の中から見出し、その能力を育成する(=そうした学生に奉仕する)ことです。
こうした主張を述べた講演録の前半を読んだ段階で、参加者同士の議論に入りました。

・大学が「学生のため」ではなく、大学自身の名声のために活動しているという事例は、現在でもよく見受けられる。
多くの組織で似たようなことがあり、講演会の企画を議論している際に「聴衆に何を伝えるのか」を問うても答えがはっきりしないことが多い。
聴衆が目的を持たずに参加することにも一因がある。
・目的を先に明確化する「ワークショップ」という形式が増えているのは、そのことにも一因がありそうだ。
・若い人には「周囲の人、ことに年長者の話はとりあえず聞いてみる」という姿勢も必要ではないか。
若さゆえの吸収力がある一方で社会経験が少ないので、何がその人の心に訴えるか、事前にわからないことも多い。
・前述の一般的な類型は上から下に与える「講義型」が中心で、聴衆がだまって視聴する
「劇場」に似た感じがする。

 

グリーンリーフはシニア・フェローの特殊性に期待しつつ、一方で学生が自身の素質に気がつくように促す役割は教職員にあり、この分野をシニア・フェローに頼ってはいけない、とも主張しています。
そしてシニア・フェローは自身の経験から何かを与えてくれると鋭く気づいている学生たちの特殊な英知の源、と定義しました。
さらに、大学では教職員が中心となって、並はずれて責任感のある学生を発掘し指導する必要がある。
1970年代の米国は大学進学率が50%に及んでおり、大学を社会から隔絶した「非現実」の世界とするのではなく、実際的で現実の場として、素質のある学生を大学教育の中で伸ばさなければ、将来、他の場で伸ばすことは難しい。
大学がこうした学生に奉仕する(指導して伸ばす)意志と明確な目的と決断が必要、と喝破しています。
グリーンリーフの過激ともいえる主張に触れて、参加者の議論は続きます。

・今も大学においては、学生の学問に取り組む姿勢や手立てを教えていないことが多い。
実社会に出ればすぐに第一線での競争があるにもかかわらず、スキルとしての取組み方法の知識が不足していることが多い。
大学が非現実の世界となっている証拠ではないだろうか。
・いわゆる文系で履修、卒業する学生の場合、目的があいまいで「自分が何者か」ということも分からない可能性がある。
実際にいろいろな社会経験を経て40歳代、50歳代になって分かることもある。
・グリーンリーフの主張が「素質のある人を選抜」であることに違和感がぬぐえない。
先天的なものを重要視するのであれば、努力することの価値が損なわれる。
人生や社会が運命論に陥るのではないか。
経営者も素質だけで決まるわけではない。
・ある分野のトップについて、第一人者(ナンバーワン)が一人いれば十分ということも多い。
ただしナンバーワンに選ばれなかった人も組織の中で存在意義があることを忘れてはならない。
・留意点がある。グリーンリーフはリーダーを組織の長に限定していない。
むしろ真実を知り、ここに周囲を導く者がリーダーであり、そうしたリーダーが組織のどこにいるか、耳を澄まして探す必要性を主張している。
またリーダーとしての能力を後天的に得る可能性にも言及しており、その点はラリー・スピアーズがサーバント・リーダーの属性を10にまとめている(本書p.572-573)。
もっとも、その資質の獲得は極めて厳しいものであるとも言っており、安直な慰めはしていない。
・社会では失敗から学ぶことも多い。重要なことと思うが、大学が失敗を経験した人に「学生のために、失敗について語ってほしい」と依頼してくることは少ない。
・次の世代を育て価値を伝えるには、無私とならねばならない。どうしても自分の利益(評価など)に惑わされがちで無私となるのは難しい。
・この学習で得たことを職場でも共有し、現場で生かしていきたいと思う。

 

グリーンリーフの思想と主張には、学習すべきことがまだ多数あり、これからも参加者の語り合いの中で、彼の神髄に少しでも近づきたいと思います。
これで、第5章「教育におけるサーバント・リーダーシップ」を読了し、次は第6章「財団におけるサーバント・リーダーシップ」に入ります。

次回は 12月13日(金) 19:00~21:00 レアリゼアカデミーで開催予定です。